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3年間でどこが進化した? 石川遼の静かで効率的に飛ばせるスイングを大検証【ちょっと細かい連続写真解説】
2020年から約3年の月日をかけて大幅なスイング改造に取り組んできた石川遼。どこが変わり、どう進化したのか。プロコーチの奥嶋誠昭氏がちょっと細かく解説する
配信日時:2022年12月28日 00時00分
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「スイングの再現性を高める」。そう言って、統計データ分析に長けている田中剛氏をコーチに迎え、2020年からスイング改造に取り組んできた石川遼。コンパクトなトップに始まり、左手首を手のヒラ側に折る掌屈動作、そしてクイックだった切り返しをゆっくりにするなど、スイングのタイミング自体も大きく変化した。
「スイングの再現性を高める」。そう言って、統計データ分析に長けている田中剛氏をコーチに迎え、2020年からスイング改造に取り組んできた石川遼。コンパクトなトップに始まり、左手首を手のヒラ側に折る掌屈動作、そしてクイックだった切り返しをゆっくりにするなど、スイングのタイミング自体も大きく変化した。
2019年のドライバースイング後方
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2019年のドライバースイング後方
2022年のドライバースイング後方
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2022年のドライバースイング後方
スイング改造3年目となった2022年は、序盤こそバーディ合戦の展開にまったくついていけず、思い通りにならないショットに苦しんだこともあった。そこから徐々に調子を上げて、9月の「ANAオープン」ではプレーオフで大槻智春に敗れて2位に。11月の「三井住友VISA太平洋マスターズ」で、ついに19年以来3年ぶりとなるツアー通算18勝を挙げ、その成果が形となって表れた。石川のスイングはいったいどこが進化したのか。プロコーチの奥嶋誠昭氏に“ちょっと細かい”スイング解説をしてもらった。
トップが小さくなり、シャフトの向きが激変
一番変化がわかりやすいのはコンパクトなトップだろう。顕著だったのは2021年開幕戦の「東建ホームメイトカップ」。全米オープンチャンピオンのジョン・ラーム(スペイン)を彷彿とさせるショートトップに変身を遂げた。改造前の2019年は手元よりもヘッドが下に垂れて、シャフトの向きが飛球線よりも右を指す『クロス』に入っていた。それが2022年は、ヘッドは手元よりも高い位置にあり、シャフトの向きは飛球線よりも左を向く『レイドオフ』のポジションとなっている。
「トップが大きくていいことはないですからね。大きくなればなるほど、単純にショットは荒れます」と奥嶋氏。19年の20代後半のスイングですら、15歳でツアーに勝ったときに比べれば大人しくなった印象があるが、31歳となった現在はさらに静かな動きとなった。
「いままでは助走距離を大きくしてスピードを出して球を叩いていたのが、いまはプレーンから外れなくなって力が抜けづらくなった。始動でもあまり右に動かないし、必要最低限の動きで飛ばしています。力の出し方が効率よくなって、飛距離をそんなに落とさずに安定性が増した」。VISAで優勝したときに自己申告したドライバーのキャリーは「288ヤード」。今後、トレーニングによって体の出力を上げていけば、安定感を維持したまま飛距離アップすることも可能だろう。
「いままでは助走距離を大きくしてスピードを出して球を叩いていたのが、いまはプレーンから外れなくなって力が抜けづらくなった。始動でもあまり右に動かないし、必要最低限の動きで飛ばしています。力の出し方が効率よくなって、飛距離をそんなに落とさずに安定性が増した」。VISAで優勝したときに自己申告したドライバーのキャリーは「288ヤード」。今後、トレーニングによって体の出力を上げていけば、安定感を維持したまま飛距離アップすることも可能だろう。
石川がバックスイングで上げていくシャフトの軌道と、下ろしていく軌道を重ねてみると、トップでシャフトがクロスしていて2019年は、上げていく軌道よりも下ろしていく軌道のほうが角度は緩やか。このズレがショットの散る原因にもなっていた。それが20年最終戦の「ゴルフ日本シリーズJTカップ」のスイングでは、ほぼ上げた角度で下りてきていることがわかる。これが奥嶋氏のいう「ワンプレーンって感じ」なのだ。
切り返しがゆっくりになり、軟らかいシャフトに変更
そして、連続写真ではわかりにくいが、ショートトップからの切り返しのタイミングはかなりゆっくりに。以前は上げた反動を利用してクイックに下ろすタイプだった。それがいまはトップでしっかり間を取ってゆっくりとダウンスイングに入る。「切り返しで勢いをつけていたのが、効率よくなったと思います。シャフトが暴れなくなった」と、これも精度の向上につながっている。
石川に限らず、松山英樹や金谷拓実、中島啓太らもトップで一度シャフトのしなりを完全に止めてからダウンスイングに入る。これについて奥嶋氏は「確かに全般的にちょっと止めて、ダウンスイングでガツーンといく人が多くなりました。そのメリットはいかにインパクトに向かって力を出すか。切り返しで反動を使うと、インパクトより早く力が出てしまう。止めると切り返しでシャフトに負荷がかからないから暴れない」と話す。
石川に限らず、松山英樹や金谷拓実、中島啓太らもトップで一度シャフトのしなりを完全に止めてからダウンスイングに入る。これについて奥嶋氏は「確かに全般的にちょっと止めて、ダウンスイングでガツーンといく人が多くなりました。そのメリットはいかにインパクトに向かって力を出すか。切り返しで反動を使うと、インパクトより早く力が出てしまう。止めると切り返しでシャフトに負荷がかからないから暴れない」と話す。
これは道具の面でもメリットがある。「前とシャフトが換わっているはずです。おそらく、軟らかいシャフトでも使えるようになったと思う。昔よりもガチガチの硬いシャフトでなくても良くなった。暴れ気味の人は硬いシャフトしか使えませんからね」。つまり、シャフトのしなりをより生かして飛ばすことも可能となる。実際、奥嶋氏がいうように、19年は70グラム台のTX(ダブルエックス相当)を使用していたが、いまは60グラム台のXに変更。アイアンのシャフトもシーズン中にXからSへと軟らかくなった。
左手の掌屈動作で、“タメ”が深くなった
インパクトに向かって効率よく力を出していく。それはダウンスイングの“タメ”にも表れている。切り返しは静かなのに2019年に比べると、今年は少しタメが深くなった。奥嶋氏がポイントに挙げたのは左手首を手のヒラ側に折る『掌屈』。「以前は掌屈動作が入らないので、タメが少し早くほどけています。掌屈することでほどけずにタメが深くなる。それに前は振り遅れても手のさばきの上手さで何とかしていたのが、振り遅れの感じが減りましたね」という。
ちょっと細かい話だが、3年前よりもトップでの手元の位置は低い。これにはどんなメリットがあるのだろうか。「前傾角度に対して(手元を上げずに)そのまんま回ってくる感覚だから低いんでしょうね。理想的な手の高さは人によって違うと思うので、低くすればみんなが良くなるわけでもないです」と、万人に合うわけではなさそうだ。
ちょっと細かい話だが、3年前よりもトップでの手元の位置は低い。これにはどんなメリットがあるのだろうか。「前傾角度に対して(手元を上げずに)そのまんま回ってくる感覚だから低いんでしょうね。理想的な手の高さは人によって違うと思うので、低くすればみんなが良くなるわけでもないです」と、万人に合うわけではなさそうだ。
左股関節の上で回り、右足を横に蹴る
ショートトップに左手首の掌屈。上半身の動きが大きく変わったのは素人目にもわかるところ。奥嶋氏は右足の動きに注目する。「脚の使い方が変わっています。以前はどちらかというと右足のツマ先で前方に蹴っていた。それが横になった」。これはよく見ないとわからない変化だが、フォローでの右足を拡大してみると、確かに形が違う。19年は左に体重移動しながらも、右足のツマ先全体が地面に着いているのに対し、22年後半は右足を回転させながら右ツマ先の内側で蹴る。そのとき左足もカカトでしっかり地面を踏みしめている。
「以前は右腰が前方に出る、球が曲がる動きだった。いまのほうが力が進行方向に向かっています」。足の使い方でもボールに力を効率よく伝える動きに変化。しかし、ただ足の使い方が変わっただけではない。「いまは左足の股関節の上で回っているので、以前よりも頭が右に残らなくなりました。ドライバーは少しあおるので絶対右に残るのですが、やりすぎはよくない。この頭の位置が右足で横に蹴る動きとも連動しているのです」。
「以前は右腰が前方に出る、球が曲がる動きだった。いまのほうが力が進行方向に向かっています」。足の使い方でもボールに力を効率よく伝える動きに変化。しかし、ただ足の使い方が変わっただけではない。「いまは左足の股関節の上で回っているので、以前よりも頭が右に残らなくなりました。ドライバーは少しあおるので絶対右に残るのですが、やりすぎはよくない。この頭の位置が右足で横に蹴る動きとも連動しているのです」。
グリップを変えて戻した
3年間、良くなることを信じて疑わずにコツコツと取り組んできた石川のスイング改造。ここからはコーチ目線でいくつか質問をしてみた。昨年の春先に左手の人差し指と右手の小指を絡めて握る『インターロッキング』から左手の人差し指に右手の小指を乗せて握る『オーバーラッピング』にチェンジ。それを今年の10月に『インターロッキング』に戻し、11月に優勝している。グリップが変われば違和感が出て、フィーリングも大きく変わるはずだ。
「インターロッキングのほうがしっくり振れるんだと思います。自分がやりたい動きに合わせて行っている。インターロッキングに戻すのはすんなりいけたんだなと思います。自分の感覚的に気持ち良く上がる。おそらくグリップメインでは考えてない。振り方とかクラブの使い方をメインで変えたんでしょう」
「インターロッキングのほうがしっくり振れるんだと思います。自分がやりたい動きに合わせて行っている。インターロッキングに戻すのはすんなりいけたんだなと思います。自分の感覚的に気持ち良く上がる。おそらくグリップメインでは考えてない。振り方とかクラブの使い方をメインで変えたんでしょう」
ここまで変えるのに、コーチ目線でどのくらいかかる?
試行錯誤を繰り返しながら3年を要したスイング改造。もし奥嶋氏がここまでスイングを変えたいと頼まれたらどのくらい時間がかかるのか? 「めっちゃかかる!」と奥嶋氏は即答。続けて、「よくやっているなと思いますよ。ここまで変えるのは少なくても1年はかかります。シーズン半分は棒に振らないといけない」。
そのなかで石川は、2020-21年シーズンは賞金ランキング18位、今シーズンは1勝を含む賞金ランキング10位で終えている。そこまで大きく成績を落としていないのだ。「アプローチとパターが上手いから。すべてはそこなんです」。奥嶋氏は木下稜介のコーチとして22年の「フジサンケイクラシック」に帯同したとき、予選ラウンドで同組となった石川のプレーを実際に見ている。
「フジサンケイでは右に曲げて、キンコンカンと林に打ち込んでいる印象が強くて。でも終わってみたら5位みたいな(笑)。球が散ってもあのアプローチ・パターがあるから生きていけるんだろうなって。ここまでのスイング改造は、あのアプローチ・パターがないとできないと思う。見方を変えれば、ショットの比重が高い選手でも、アプローチとパターが上手くなるチャンスではあるんですけどね」
そのなかで石川は、2020-21年シーズンは賞金ランキング18位、今シーズンは1勝を含む賞金ランキング10位で終えている。そこまで大きく成績を落としていないのだ。「アプローチとパターが上手いから。すべてはそこなんです」。奥嶋氏は木下稜介のコーチとして22年の「フジサンケイクラシック」に帯同したとき、予選ラウンドで同組となった石川のプレーを実際に見ている。
「フジサンケイでは右に曲げて、キンコンカンと林に打ち込んでいる印象が強くて。でも終わってみたら5位みたいな(笑)。球が散ってもあのアプローチ・パターがあるから生きていけるんだろうなって。ここまでのスイング改造は、あのアプローチ・パターがないとできないと思う。見方を変えれば、ショットの比重が高い選手でも、アプローチとパターが上手くなるチャンスではあるんですけどね」
スイング改造中でも勝てた要因は?
奥嶋氏と仲の良い44歳の谷原秀人もまた、スイング改造に取り組みながら2021年は2勝、2022年は最終戦で1勝と勝利を重ねてきた。谷原は生粋のフェードヒッターだったが、19年から吉田直樹氏に師事し、ドローも多用するようになっている。石川と同様にショートゲームはツアー屈指の実力だ。
「谷原さんもアプローチ・パターがあるから、スイングでいろいろできる。『ショットは70台で回れるくらいでいい。であれば勝てるし』と谷原さんは言っていましたね」。確かに22年の石川と谷原の優勝は、そこまでショットがピンに絡んでいたわけではない。ショートゲームという大きな土台の上に彼らのゴルフは成り立っている。石川本人も「50ヤード以内は別」とスイング改造とは切り離して考えているのだ。
石川の2023年についても「活躍すると思います」と奥嶋氏は太鼓判を押す。蝉川泰果や河本力といった20代前半の若い選手たちが台頭してきた男子ツアーで、31歳となり新たなスイング、そして新たなゴルフスタイルを確立しつつある石川がどんな活躍を見せるのか。20年に種を撒き、3年かけて実ってきた成果を収穫するときがきた。
「谷原さんもアプローチ・パターがあるから、スイングでいろいろできる。『ショットは70台で回れるくらいでいい。であれば勝てるし』と谷原さんは言っていましたね」。確かに22年の石川と谷原の優勝は、そこまでショットがピンに絡んでいたわけではない。ショートゲームという大きな土台の上に彼らのゴルフは成り立っている。石川本人も「50ヤード以内は別」とスイング改造とは切り離して考えているのだ。
石川の2023年についても「活躍すると思います」と奥嶋氏は太鼓判を押す。蝉川泰果や河本力といった20代前半の若い選手たちが台頭してきた男子ツアーで、31歳となり新たなスイング、そして新たなゴルフスタイルを確立しつつある石川がどんな活躍を見せるのか。20年に種を撒き、3年かけて実ってきた成果を収穫するときがきた。
■奥嶋誠昭
おくしま・ともあき 1980年3月26日生まれ。神奈川県出身。ヒルトップ横浜クラブ内の「ノビテックゴルフスタジオ」で、体とクラブの動きを3次元で計測・解析する『GEARS』(ギアーズ)をはじめとする、世界最先端機器を駆使したレッスンを行っている。ツアープロコーチとして、現在は木下稜介、河本結、松田鈴英らを指導。
おくしま・ともあき 1980年3月26日生まれ。神奈川県出身。ヒルトップ横浜クラブ内の「ノビテックゴルフスタジオ」で、体とクラブの動きを3次元で計測・解析する『GEARS』(ギアーズ)をはじめとする、世界最先端機器を駆使したレッスンを行っている。ツアープロコーチとして、現在は木下稜介、河本結、松田鈴英らを指導。
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