2024年もギャラリーを魅了する熱戦の数々が繰り広げられたゴルフ界。その中で現地記者が心を揺さぶられた一戦を「ベストバウト」として紹介する。今回は10月の国内男子ツアー「日本オープン」。
“日本一”の男子ゴルファー決定戦の最終日。18番のグリーン上で20メートルのバーディパットを決めた今平周吾は、右手を高々と上げ「しゃー!」と雄たけびを上げた。目の前で見ていた私はもちろん、ギャラリーの記憶にも鮮烈に刻まれた瞬間だった。
トップと1打差で迎えた日曜日は、同組の稲森佑貴、最終組の木下稜介と前半からし烈な争いが繰り広げられた。後半に入り、今平が14番パー4でおよそ8メートルのバーディットを沈めると、木下が同ホールから連続ボギーを喫した。その時点で、単独トップに立つ今平のリードは2打に広がった。
だが、17番でボギーを叩いた今平に対し、木下は同ホールで値千金のチップインバーディ。ともに首位で最終18番パー4を迎えた。残り1ホール。会場全体に緊張感が漂う。グリーン周囲を囲む観客は息を潜め、ざわめきが静まり返る中、今平の230ヤードからの2打目は3番ユーティリティでピン前約20メートルにオンとなった。
このとき「パーで終えて、木下選手もパーフィニッシュならプレーオフかな…」と今平は考えていた。「木下さんとスコアが並んでいるのは分かっていたので、とりあえずパーを取ってプレーオフに持ち込めれば、と思っていました」と心境を明かす。チャンスとは言い難いロングパット。2パットのパーを狙いアドレスをとった。
そして、ボールはカップに向かって転がり始める。カップまで約1メートル手前に達した瞬間、今平は入ることを確信。右手を高く掲げた。キャディの柏木一了氏が「入れ! 入れ!」と叫ぶと、ボールはカップイン。その瞬間、今平は大きく口を開けて吠え、柏木キャディと力強く拳を突き合わせた。
そのシーンは今も鮮明に思い出せる。目の当たりにした私は、思わず『入った!』と叫んでしまったほどだ。今平自身も「まさか入るとは思っていいなかった。すごい、なんだろう。(入った瞬間)頭が真っ白になるような、すごく変な感覚でした」と話す。これまでのプロ人生でも特別な瞬間だったことをうかがわせた。
今シーズンは苦しい時期もあった。「思うようなゴルフができていなかった」と振り返るように、8月の「横浜ミナト Championship 〜Fujiki Centennial〜」以降、3試合連続で予選落ちを経験。しかし、17年のツアー初優勝以来、毎年勝利を重ねる中で、念願の日本タイトルを手にした。「日本オープンは優勝したい大会の一つでした。今年はあまり成績が良くなかったので、それで優勝できて本当にうれしい」と語った。
常に冷静沈着なプレースタイルで知られる今平だが、優勝会見で『あれほど大きな声を出したことはありますか?』と問われると、「ないですね(笑)」と照れ笑いを浮かべた。そのガッツポーズと叫び声は、平常心を貫く今平のゴルフ人生における特別な瞬間として、見る者の記憶に刻まれた。
感動的な優勝シーンを目撃できたことに、いまでも胸が高鳴る。今平のさらなる飛躍を期待せずにはいられない。(文・高木彩音)