<Sansan KBCオーガスタゴルフトーナメント 最終日◇27日◇芥屋ゴルフ倶楽部(福岡県)◇7216ヤード・パー72>
こんなに記者たちを笑わせながら行われた外国人選手の優勝会見は記憶にない。猛暑の中で行われた今年の福岡決戦は、韓国出身の32歳、ソン・ヨンハンが混戦を抜け出し、2016年の「SMBCシンガポールオープン」以来となるツアー2勝目を飾った。
兵役、コロナ、結婚、スイング改造… ソン・ヨンハンの7年ぶり2勝目までの道のり
甘いマスクの人気者。ソン・ヨンハンが7年ぶりの勝利をつかんだ。
配信日時:2023年8月28日 00時31分
<Sansan KBCオーガスタゴルフトーナメント 最終日◇27日◇芥屋ゴルフ倶楽部(福岡県)◇7216ヤード・パー72>
こんなに記者たちを笑わせながら行われた外国人選手の優勝会見は記憶にない。猛暑の中で行われた今年の福岡決戦は、韓国出身の32歳、ソン・ヨンハンが混戦を抜け出し、2016年の「SMBCシンガポールオープン」以来となるツアー2勝目を飾った。
トータル14アンダーで並んだヨンハン、宮里優作、小林正則との最終日最終組。ショットに苦しむ2人を横目に、ヨンハンは前半だけで4つ伸ばして独走態勢に入った。しかし、最後はヒヤッとする展開に。先にホールアウトしていた2位の永野竜太郎に3打をつけての最終18番パー5で、ヨンハンはティショットを右に曲げた。
強烈なツマ先上がりからの2打目はヘッドがボールの下をくぐり、ヨンハンの足に当たってしまった。これは18年までのルールなら1罰打だったが、19年のルール改正で無罰となっている。「アマチュアみたいなチョロ?を打ってしまった(笑)」。4打目でグリーンに乗せるも、「緊張したかもしれないです。パターを打つときの感覚があまりなかった」とファーストパットは大オーバー。返しも決めることができず、結局最後は4オン・3パットのダブルボギーで、何とか1打差で逃げ切った。
「勝って良かったんですけど、18番がきたなくて、なんかね…うれしいけど、まだ勉強になりました(笑)」と、嫌みのないさわなかな笑顔を浮かべながら、流ちょうな日本語で話す。
12年に日本のQTを受け、翌13年から日本ツアーを主戦場としている。韓流スターのような甘いマスクで日本でのファンも多い。ツアー初優勝は日本ツアーとアジアンツアー共催の16年SMBCシンガポールオープン。当時世界ランキング1位だったジョーダン・スピース(米国)を1打差で振り切った。「初めて勝ったとき、2勝目が早めに来るかなと思ったのに、7年間かかったんですよね。とりあえず日本で勝ちたかった。きょう勝って…本当にうれしいです」。参戦11年目にして日本の地での初勝利に喜びも大きい。
19年には一度ゴルフを離れ、2年間の兵役についた。一番大変だったことは“タメ口”だったという。「練習はもちろんできませんでした。僕は29歳のときに入ったんですけど、韓国人はみんな20歳とか21歳のときに行くんですよね。9歳くらい下なのに、僕より早めに入ったら上ですよ。『ヨンハン!』とかタメ口で呼ばれたりとか(笑)。あの一年間は気持ちがあまり良くなかったです。タメ口好きじゃないから」。
軍隊で訓練を受けているとき、日本ツアー復帰を見据えて日本語を勉強した。「ひらがなとカタカナを勉強して今は読めます。(前は)お店に行ったときに写真がなかったら注文できなかった。でも今は読むからできます」と得意顔だ。兵役を終えたときは、韓国ツアーのシードも持っていたが、「いらないと思って日本に来た」。21年に日本ツアーに復帰してから、韓国ツアーに出なかったため、いまはその出場権を失った。
「日本の試合はコースもグリーンもきれい。選手たちのレベルも高い。食べ物とかは大変ですけど、韓国から近いし、韓国料理の店もいっぱいある。もちろん日本の食べ物も好き。いろんな魅力があります。とりあえずJGTO(日本ツアー)が大好き」
しかし、21年に日本ツアーに戻って来ると、コロナ渦で状況は一変していた。「兵役に行く前と雰囲気が違ったんですよね。ギャラリーもいないし、ゴルフ場にキャディさんが入れないとか、厳しいことが多くて雰囲気が良くなかった」。
そんななかで人生の転機が訪れる。当時ヨンハンが契約していたウェアメーカーで社長の秘書をしていた会社員の女性と、21年12月18日に結婚した。妻は現在も韓国で会社勤めをしているため、日本には帯同していない。この話を向けると、「僕はグリーンで優勝スピーチをするとき、ワイフのことを忘れて(笑)。韓国のTVで出てなくて良かったかなと思ったんです」と笑わせる。
結婚後に初めて迎えた22年シーズンは、シード陥落の危機を迎えていたが、自身最終戦の「カシオワールドオープン」で6位に入り、何とかシードに滑り込んだ。「結婚してダメだったとか、いろんな話が聞こえてきて、だからワイフはプレッシャーがかかったみたいです。ワイフはいつも僕を安心させてくれる。今年は僕(の成績)が良くてワイフも安心」。今回の優勝は2人にとっても大事な1勝になったようだ。
好調なシーズンの要因としては、オフに行ったスイング改造がある。昨シーズンの途中からプロゴルファーだった友人にコーチを代え、フェードからドローへ球筋を変更したのだ。「フェードのスピンが多くなって、けっこう右のミスが多かった。それで冬からドローにスイングを変えたんです。いまはフェードも打てるんですが、ドローのほうが打ちやすい」。
昨年は思ったように調子が上がらず、出場23試合中10試合で予選落ち。「今の実力だったら、ゴルフをやめたほうがいいかな」とまで考えた。そこから「冬に練習して変わらないと」という強い思いでスイング改造に取り組み、この優勝につなげた。「一番変わったのはバックスイング。小さかったのを大きくしました。球が強くなって距離も前より飛んでいるし、風が強いときのコントロールも簡単だから、いいことが多くなりました」と話す。
最終日に話を戻すと、ヨンハンがプレーする最終組の1つ前で、先に暫定2位でホールアウトしていた永野は「ヨンハンのプレーを見てから」と、取材エリアにはすぐ現れなかった。プレーオフを見越していたのかと思いきや、ヨンハンの優勝を祝福する男子ツアー恒例のウォーターシャワーに永野も加わっていたのだ。優勝を争った2人はよく食事をともにする仲で、最後はガッチリ握手をかわした。永野のほかには韓国の後輩、イ・サンヒ、勝俣陵、阿久津未来也の姿も。「ウォーターシャワーは初めてだったのでうれしかったです」。
そんな日本の選手たちからも愛されているヨンハン。今後の目標について聞かれると、「お父さんとお母さんに子供のときから悪いことは絶対しないように教えてもらった。もちろんゴルフでいっぱい勝ちたいけど、選手たちから見ても、上手い選手、マナーのいい選手、勉強になる選手、そんな選手になりたいです」と人間性を挙げた。通訳を通さず、質問する記者の目を見ながら終始にこやかに明るく話した優勝会見に、そんなヨンハンの思いを感じた。(文・下村耕平)
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