<日本女子オープン 3日目◇30日◇芦原ゴルフクラブ 海コース(福井県)◇6528ヤード・パー72>
ホールインワンだと思ったらバーディに…。 そんな事態がトータル3アンダー・17位タイで決勝ラウンドに進んだペ・ソンウ(韓国)の身に起こった。女子オープンで発生した“前代未聞”のできごとは、いったいどんな状況だったのか? 本人、そして日本ゴルフ協会(JGA)が、その時の状況を説明した。
“事件”が起こったのは前半の7番パー3。5番アイアンで打った「素晴らしかった」というティショットはピン筋に飛び、そのままカップに飛び込んだ。ダンク・ホールインワン。誰もがそう思う状況。実際、一時的に速報サイトにはイーグルを示す『◎』もついた。しかし、ボールがカップ側面に突き刺さっているのを見たソンウは、競技委員を要請する。そして以下の裁定を聞くことになった。
『球がホールの内側側面に食い込み、その球のすべての部分がパッティンググリーン面より下にない場合、その球はホールに入ったことにはならない』。ソンウ曰く「球の5分の1」、JGA曰く「球の半分」がグリーン面よりも上にあったこの状況では、カップインが認められず。つまりホールインワンは一瞬で幻になった。
ソンウが、その時の心境を振り返る。「側面に止まっていたけど、5分の4ほどは入っていたので、カップに入ったと認識していました。でも100%入ってないといけないと言われて…」。そして説明を受けると、モヤモヤした気持ちを抱えながらも、深くめり込んでいたボールを手で取りだした。
この後の措置は、以下の通りとなる。本来、拾い上げた後はピッチマークを修復し、元の場所にリプレースすることになる(規則13.1c[2])が、今回の場合はカップ内の側面とあってこの対応は不可能。そこで『リプレースした球が止まらない場合、ホールに近づかず、球が止まる最も近い箇所にリプレースしなければならない』(規則14.2e)というルールに則り、カップ付近に置き直した。そして、それを流し込みバーディが認められた。
この時ピンは抜かなかったのだが、ここで気になるのは“ピンにボールが寄りかかっている場合、それを抜いて、ボールが落ちればカップインが認められるのでは?”という点。大会のチーフルールズディレクターの市村元(げん)氏が説明する。
「2019年にルールが変わった時に、旗竿をホールに立てたままプレーしてもよくなりました。そして打った球が旗竿に寄りかかっている場合には、球の一部でもグリーン面より下にあれば、ホールに入ったことになる。ただ側面に食い込んだケースは別で、この場合は旗竿に触れていてもホールに入ったことにはならないとオフィシャルブックに記載されている。旗竿を揺らして入っても、それは認められません。あくまでも側面にささった特殊な状況では別の扱いになります」
この場は「終わってから改めて聞き直そうと思って、気持ちを切り替えました」というソンウは、「70」と2つ伸ばしたホールアウト後に「納得するため」にスコアリングエリアで再度説明を求めた。通訳も交えて耳を傾ける。そして「ルールブックを見て、その内容が書いてあったので仕方ないですね」と、その場を後にした。
市村氏は、このできごとについて「JGA競技、女子オープンでの経験は初めてです」と認める。ただ、R&Aも含めテストやレフェリー講習などではよく出題され、知られている問題で、「決して難しい事例ではない」と話す。もちろん選手としては、“ちょっぴり”悔しさが残っても不思議ではない。21年には2度のホールインワンを達成しているソンウの表情は、決して晴れやかとはいい難かったが、それでも6位と上位につける最終日に集中する。この“モヤモヤ”を吹き飛ばすような活躍を見せたい。(文・間宮輝憲)