「ヨネックスレディス」を制した32歳・上田桃子は優勝会見で言った。「2日目に『選手のピークはいつですか?』と質問されたのですが、こうして優勝してみると改めて“今”がピークだと思います」。賞金女王に戴冠したときよりも上。そう確信している。
これぞ大山志保!象徴的なガッツポーズ【写真】
過去の自分との差は蓄積された経験だ。「ゴルフだけでなく色々なことを積み重ねているのは自分にとって財産ですし、それらが今の自分を作っている」。そして、“今”は毎日更新されていく。「限界を作らなければまだまだいけると思いました。ケガがなければゴルフは年が経つほど上手くなっていく。年齢がいっても飛距離を言い訳にしない、体力を言い訳にしないということをできる人はできる」。まだまだ伸びしろは十分だとも。
この話が出たときに名前が上がったのが、5月に42歳となった大山志保だった。「難しいことは増えていくけど、年齢はそこまで関係ない。大山さんを見てそう感じます」。「KKT杯バンテリンレディス」で40歳初Vを挙げた李知姫(韓国)も「プロゴルファーを始めたころは30代で引退すると思っていました。でも(大山)志保さんを見ていると『いけるじゃん』って」。40を超えてなお、怪我を何度も乗り越えて勝ち続ける姿は、ライバルたちからも尊敬のまなざしを向けられている。
その大山が今、苦しんでいる。
今季は10試合に出場して予選落ちが6度。これは10試合以上出場している2001年以降で最も悪い数字。首痛を押して出場した昨年をも下回る。体調以上に深刻なのはゴルフの状態。「今年は今までしないようなショット、パターのミスがすごく多い。100ヤード以内からいきなりダフったり…」。持ち前の切れ味鋭いアイアンショット、最大の武器である強気のパッティングが鳴りを潜めている。
「考えすぎているのかもしれない」というのが大山の見立て。「去年よりも体調がいいから、自分が求めているスイングをしたいんですよね。あーでもない、こーでもないとコースの中でもずっとやっている。今まではそうやって考えてビタってハマることがあったんですけど、今年に限ってはずっとしっくりくるというのがない」。
昨年優勝したときは首痛がひどかったことから、フォームまで頭が回らず、とにかくがむしゃらだった。本来の持ち球はドローなのにスライス気味の球が出る。それでも「どんな球でもまっすぐいけばいいや」とプレーした。だが、改めてその時の映像を見てみると「いやだ。このスイング」と見ていられないくらいひどいもの。今年は体調が良くなったから求めるところを目指していこうとスイング修正に着手、試行錯誤しているが、その糸口が見えてこない。
今までのような闘志あふれるスタイルも薄れた。そんな大山を見て、キャディのデイナ・ドリュー氏は「今年のシホは昔みたいにガッツがない」と言ったという。トレードマークのガッツポーズが減ったのは成績の関係上仕方ないとはいえ、確かに悔しがるシーンが明らかに減った。バーディパットを外したときの“絶望感”も薄れた。ましてや予選落ちした大山なんて何を聞いても無表情で、話を聞くことは本当に大変だった。それほどまでにプレーにのめり込む選手が、一番身近な人物にそう言われたのだ。
モチベーションはある、と大山は迷わずに言う。「こんなに予選落ちするのは久しぶり。悔しい気持ちがないということは全くありません。悔しさはすごくあるし、まだまだやれるという気持ちもあるんです」。では、なぜ感情を表に出さなくなったのか。
「今年で42歳になって難しいなと思うのが…、プレースタイルなど昔のままでいいのかなって。大人になるというか、年齢なりの対応だったり、ゴルフのプレースタイルもそうじゃないといけないのかなと思う自分がいるんです」。
思い立ったのは「ヤマハレディース」の2日目。「私こんなんじゃだめだ。変わろう、と思いました。ミスしてもいつもなら相当怒ったりしていましたが、今はあっさりしているというか、それもまた難しいです。ヤマハではそのスタイルで成績が付いてきました(8位タイ)が、そこからは…。今まではボギーがきたら、自分に怒って次はバーディ絶対獲ってやるという感じだったのが、今は『はい、次』って淡々とするけどボギー、ボギーってズルズルいってしまう」。ヤマハ以降成績が出ていないことに加えて、何度も「難しい」という言葉を使うことからも、まだ迷いが見える。
闘志あふれる戦い方を変える理由には、成績の波を無くす意味合いもある。「私はパッティングが入り出したらどんどん入るけど、逆もあるんです。入らなくなったらズルズルいってしまう。極端なんですよね」。とはいえ、それでゾーンに入ったときの凄まじいまでのバーディラッシュを失ってしまっては元も子もない。
スタイルを変えるのか。貫くのか。いずれにしても覚悟を決めなければならない。「ハートが弱くなったわけじゃない。考え方がごちゃごちゃして自分というものを失っているような気がします。自分を貫き通せていない」。どちらかの道に進む、もしくは両方を上手く活用する道を選ぶとしても、自分を信じて頭をクリアにする必要がある。
最後まで悩みに悩み抜いている様子の大山。だが、その根幹にはこのままではいけない、という思いがある。「もちろん勝つためにやっています。この悔しい気持ちを私の中で溜めて溜めて溜めて、チャンスがきたときに掴みにいきたいなって思っています。今の予選通るか通らないかのレベルにはいたくない。どんなに神様がやめろと言っても、自分はやめたくない」。話題の黄金世代よりも年齢は2倍、数多の経験を踏んでいる名手は、次なるピークに向けてもがいている。(文・秋田義和)
これぞ大山志保!象徴的なガッツポーズ【写真】
過去の自分との差は蓄積された経験だ。「ゴルフだけでなく色々なことを積み重ねているのは自分にとって財産ですし、それらが今の自分を作っている」。そして、“今”は毎日更新されていく。「限界を作らなければまだまだいけると思いました。ケガがなければゴルフは年が経つほど上手くなっていく。年齢がいっても飛距離を言い訳にしない、体力を言い訳にしないということをできる人はできる」。まだまだ伸びしろは十分だとも。
この話が出たときに名前が上がったのが、5月に42歳となった大山志保だった。「難しいことは増えていくけど、年齢はそこまで関係ない。大山さんを見てそう感じます」。「KKT杯バンテリンレディス」で40歳初Vを挙げた李知姫(韓国)も「プロゴルファーを始めたころは30代で引退すると思っていました。でも(大山)志保さんを見ていると『いけるじゃん』って」。40を超えてなお、怪我を何度も乗り越えて勝ち続ける姿は、ライバルたちからも尊敬のまなざしを向けられている。
その大山が今、苦しんでいる。
今季は10試合に出場して予選落ちが6度。これは10試合以上出場している2001年以降で最も悪い数字。首痛を押して出場した昨年をも下回る。体調以上に深刻なのはゴルフの状態。「今年は今までしないようなショット、パターのミスがすごく多い。100ヤード以内からいきなりダフったり…」。持ち前の切れ味鋭いアイアンショット、最大の武器である強気のパッティングが鳴りを潜めている。
「考えすぎているのかもしれない」というのが大山の見立て。「去年よりも体調がいいから、自分が求めているスイングをしたいんですよね。あーでもない、こーでもないとコースの中でもずっとやっている。今まではそうやって考えてビタってハマることがあったんですけど、今年に限ってはずっとしっくりくるというのがない」。
昨年優勝したときは首痛がひどかったことから、フォームまで頭が回らず、とにかくがむしゃらだった。本来の持ち球はドローなのにスライス気味の球が出る。それでも「どんな球でもまっすぐいけばいいや」とプレーした。だが、改めてその時の映像を見てみると「いやだ。このスイング」と見ていられないくらいひどいもの。今年は体調が良くなったから求めるところを目指していこうとスイング修正に着手、試行錯誤しているが、その糸口が見えてこない。
今までのような闘志あふれるスタイルも薄れた。そんな大山を見て、キャディのデイナ・ドリュー氏は「今年のシホは昔みたいにガッツがない」と言ったという。トレードマークのガッツポーズが減ったのは成績の関係上仕方ないとはいえ、確かに悔しがるシーンが明らかに減った。バーディパットを外したときの“絶望感”も薄れた。ましてや予選落ちした大山なんて何を聞いても無表情で、話を聞くことは本当に大変だった。それほどまでにプレーにのめり込む選手が、一番身近な人物にそう言われたのだ。
モチベーションはある、と大山は迷わずに言う。「こんなに予選落ちするのは久しぶり。悔しい気持ちがないということは全くありません。悔しさはすごくあるし、まだまだやれるという気持ちもあるんです」。では、なぜ感情を表に出さなくなったのか。
「今年で42歳になって難しいなと思うのが…、プレースタイルなど昔のままでいいのかなって。大人になるというか、年齢なりの対応だったり、ゴルフのプレースタイルもそうじゃないといけないのかなと思う自分がいるんです」。
思い立ったのは「ヤマハレディース」の2日目。「私こんなんじゃだめだ。変わろう、と思いました。ミスしてもいつもなら相当怒ったりしていましたが、今はあっさりしているというか、それもまた難しいです。ヤマハではそのスタイルで成績が付いてきました(8位タイ)が、そこからは…。今まではボギーがきたら、自分に怒って次はバーディ絶対獲ってやるという感じだったのが、今は『はい、次』って淡々とするけどボギー、ボギーってズルズルいってしまう」。ヤマハ以降成績が出ていないことに加えて、何度も「難しい」という言葉を使うことからも、まだ迷いが見える。
闘志あふれる戦い方を変える理由には、成績の波を無くす意味合いもある。「私はパッティングが入り出したらどんどん入るけど、逆もあるんです。入らなくなったらズルズルいってしまう。極端なんですよね」。とはいえ、それでゾーンに入ったときの凄まじいまでのバーディラッシュを失ってしまっては元も子もない。
スタイルを変えるのか。貫くのか。いずれにしても覚悟を決めなければならない。「ハートが弱くなったわけじゃない。考え方がごちゃごちゃして自分というものを失っているような気がします。自分を貫き通せていない」。どちらかの道に進む、もしくは両方を上手く活用する道を選ぶとしても、自分を信じて頭をクリアにする必要がある。
最後まで悩みに悩み抜いている様子の大山。だが、その根幹にはこのままではいけない、という思いがある。「もちろん勝つためにやっています。この悔しい気持ちを私の中で溜めて溜めて溜めて、チャンスがきたときに掴みにいきたいなって思っています。今の予選通るか通らないかのレベルにはいたくない。どんなに神様がやめろと言っても、自分はやめたくない」。話題の黄金世代よりも年齢は2倍、数多の経験を踏んでいる名手は、次なるピークに向けてもがいている。(文・秋田義和)