国内女子ツアー2025年シーズン開始の号砲を鳴らした「ダイキンオーキッドレディス」では、6年ぶりの優勝を目指す柏原明日架が7位と順調な滑り出しを見せた。グリーン上での自信に満ちたプレーが、要因のひとつだ。
「松山君にも、コーチにも、フィッターのみなさんにも感謝です」
こう最敬礼するきっかけは、今年の年初にある。今季の米国男子ツアー開幕戦「ザ・セントリー」のこと。その大会を制したのは、日頃から練習をともにする機会が多い松山英樹。LINEで祝福のメッセージも送ったが、それもそこそこに、こんな質問をした。「センターシャフトのパターってどうですか?」。
笑いながら、その時のことを明かす。「おめでとうって言って、すぐにセンターシャフトの話。むしろ、おめでとうを伝えるよりも、センターシャフトのことが聞きたかったんです。タイミング的に、まずは祝福して…みたいな」。松山がハワイで使用していたパターに、とにかく興味津々だった。
もともと、パッティングについて考える中で、柏原は周りのパター巧者と言われる選手たちに、『どう打ってるの?』、『誰に聞いているの?』などの質問もよくしている。そして、この会話のなかで名前が挙がった橋本真和パッティングコーチに、昨年11月の「伊藤園レディス」から師事することを決めた。「ラインの読み方の法則を教えてもらったり。論理的な話が多くて、それが腑に落ちて実践しやすかった」。理論武装したことで、それが自信につながっていた。
そういった背景があったうえでの、松山への質問だったのだが、もともとはこの“センターシャフト”には苦手意識があったという。「小学校5年生の時に一瞬だけ(使った)。その時もショートパットを外しまくって、難しいなって思いました」。フェースの開閉により打ち損じが多くなるのでは、というのが不安の源だった。しかし、松山からの答えは『試す価値はあるよ』というもの。「一緒に練習していてパッティングのフォームも知ってくれているから、そう言ってくれた」と信頼を置く人物の言葉に委ねることを決めた。
ここからセンターシャフトのパターを試す日々を送ったのだが、コーチとともに科学的な分析を行った結果、柏原のフォームと、このセンターシャフトの相性がバツグンだったことが判明した。「もともと私は、真っすぐにストロークするタイプだったんです。だから開閉はしない。先入観で難しいと思っていただけで」。あとはヘッドの形状や、シャフトの位置などが異なるパターを打ちまくり、ダイキンに自信の一本を持ち込んだというわけだ。
その一本がオデッセイの角型『TRI-HOT 5K SEVEN S パター』。シャフトをヘッド中央にしっかりと溶接した“特注品”だ。目がきついコーライグリーンが特徴の、沖縄県・琉球ゴルフ倶楽部の4日間を平均パット数『26』で終え、この部門の全体1位にも輝いた。年初の興味が、開幕戦で実を結んだ形だ。さらに、「去年はロングネックのものを使っていたんですけど、移動のタイミングでずれたりして、それが悩みでした。でも、今回は溶接してるから動かない」という、思わぬメリットも感じられた。
メルセデス・ランキングで79位に終わった2022年、同54位だった23年と苦しい時期も過ごしたが、昨年は同44位になり3年ぶりのシード復帰を果たした。そして、今季の開幕戦でもその表情は明るい。松山の助言がなければ「絶対になかった」という、このシャフト。「近しい人だったからこそ、何が良くて、どうして替えたのかを聞けた」と、日々のつながりも生きた。
今年の目標は「(海外メジャーの)全英、全米とかに出たい。世界ランク上位(の資格)で出られたら」。現在の世界ランク236位から、メジャーシーズンまでに、当該大会の“当確ライン”まで上げることを目指す。そのためには春のスタートダッシュ、そして2勝を挙げた2019年以来の優勝が絶対条件ともいえる。心強い“相棒”とともに、ここからチャンスを決めまくりたい。(文・間宮輝憲)