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    40度の熱と戦いながら『記憶がほとんどない』 高村亜紀の2週連続優勝【名勝負ものがたり】

    歳月が流れても、語り継がれる戦いがある。役者や舞台、筋書きはもちろんのこと、芝や空の色、風の音に至るまで鮮やかな記憶。かたずをのんで見守る人々の息づかいや、その後の喝采まで含めた名勝負の数々の舞台裏が、関わった人の証言で、よみがえる。

    配信日時:2022年10月4日 23時00分

    • JLPGA
    現在はレジェンズツアーに出場している高村亜紀
    現在はレジェンズツアーに出場している高村亜紀 (撮影:GettyImages)
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    ツアー10勝目。結果的に最後の優勝になった2001年リゾートトラストレディスの優勝シーンを、高村亜紀はほとんど覚えていない。高熱で意識がもうろうとする中での出来事だったからだ。

    前年(2000年)の日本女子プロゴルフ選手権で公式戦3勝目(ツアー8勝目)を挙げた高村だったが、自分のスイングには納得できてはいなかった。「もっと安定させたかった。ずっとコーチがいなかったので、そろそろコーチをつければ、もっとよくなるんじゃないかという考えが出てきていた時期です。迷い、ではないですね。もっと上を目指したい、という気持ちでした」との思いで臨んだシーズンだった。

    ■2週連続優勝がかかっていたが、体調は今ひとつ■

    前週、千葉で行われた廣済堂レディスで、シーズン初優勝。2週連続優勝をかけて現地入りしていた。だが、体調は今ひとつ。風邪気味で、だるさを感じながら試合に入った。舞台は徳島県のグランディ鳴門GC36。淡路島と四国を結ぶ大鳴門橋からほど近く、渦潮までは見えないが、瀬戸内海を望む美しいコースだ。

    初日、2日目はプレーに体調の影響はなかった。5アンダーで木戸富貴が首位に立った初日は4打差9位タイ。2バーディ・1ボギーとまずまずの内容だった。2日目も、ひとつスコアを伸ばして通算2アンダー。首位を並走する大場美智恵、中嶋千尋には2打差、木戸には1打差の4位タイで最終日は逆転優勝を狙える位置にいた。

    ところが、その夜に状況が一変した。体調が一気に悪くなったのだ。節々が痛みだし、熱を測るとなんと40度。仲のいいトレーナーに助けを求め、持ってきてもらった解熱剤を服用した。しばらくは薬が効いて熱が下がるが、時間が経つと、また熱は上がってしまう状態。熱でほとんど眠れなかった。

    ホテルのテレビに映っていたのは、全米女子オープン。デイライトセイビングタイム(サマータイム)で、時差が13時間あるノースカロライナ州のパインニードルズロッジ&GCで、不動裕理が奮闘する姿があった。「眠れないから、夜中にそれをなんとなく見ていて。『不動ちゃん、頑張ってんな〜』なんて思ってました」。ちなみに、この晩、高村が見たのは第3ラウンド。翌日の最終日を終えて不動は12位タイに入った。

    ■最終日はアドレスするだけでフラフラする状態■

    眠れなくとも、夜は明ける。病状がまったく好転しないまま、朝を迎えた。棄権することも考えたが、不動の頑張る姿を見たこともあり「せっかく優勝争いしているんだから」と、プレーすることを決めた。

    スタート前に解熱剤を服用して臨んだ最終日。アドレスするだけでフラフラする状態だった。だが、体調とは関係なく、1番でバーディを奪う幸先のいいスタート。9番もバーディとして通算4アンダーで折り返した。首位のふたりが伸び悩む中、バックナインに入ってからもプレーは順調だった。14番、15番で連続バーディ。最終18番もバーディとして、通算7アンダー。気がつけば、中嶋に3打差をつけて優勝していた。

    「ただただボールを打つことしか考えていませんでした。具合いが悪いから、早く終わりたい気持ちしかない。その年、1年間契約していたキャディーさんを帯同していたのですが、本当に助けてもらって回り切った感じです。距離と番手は自分で決めるけど、ラインは完全に任せていました。いま思えば、体調が悪くてリキミがなかったんでしょう。余計なことを考えず、シンプルなスイングができていたのが一番よかったんじゃないでしょうか」という18ホールだった。

    ■上がり5ホールは「ほとんど記憶がない」■

    プレーしたのは自分なのに、内容はほとんど覚えていない。それどころか天候すら記憶にないほどだ。「とにかく暑かったけど、それが熱のせいなのか、天気のせいなのかもよくわからなかった」という状態だった。

    薬が切れかけた上がり5ホールは「ほとんど記憶がありません」というほど、特にフラフラだった。ウイニングパットとなった18番のバーディも、「優勝よりも打つことしか考えていなかった。完全に意識飛び気味でした。打ったら入った、ってことしか覚えていません」と話す。

    体調が悪いと余計な力が入らずいいプレーができるというのは、プロでもよく聞く話ではあるが、その究極のような優勝劇だった。ホールアウト後は、優勝者として表彰式やインタビューなどをしっかりとこなしてそのまま帰京。病院に直行したが、翌々日には元気になっていた。さすがに翌週の試合には出ていないが、回復の速さは29歳という当時の年齢と、長年のトレーニングと練習で培った体力があったからだろう。

    熱との戦いを乗り越えて2週連続優勝を成し遂げた高村は、その後に向かって様々な試行錯誤を繰り返したが、残念ながら、これを限りに優勝とは縁がない。スイング改造をしようとコーチについたが、自分のイメージを変えることができず「迷走が始まった」と振り返る。

    「今、思えばあんなふうにリキまず、余計なことを考えないでプレー出来れば、スイング改造なんて必要なかったかもしれませんね」。21年が過ぎた今、感慨深く振り返る記憶に残る戦いだった。
    ツアー10勝目。結果的に最後の優勝になった2001年リゾートトラストレディスの優勝シーンを、高村亜紀はほとんど覚えていない。高熱で意識がもうろうとする中での出来事だったからだ。

    前年(2000年)の日本女子プロゴルフ選手権で公式戦3勝目(ツアー8勝目)を挙げた高村だったが、自分のスイングには納得できてはいなかった。「もっと安定させたかった。ずっとコーチがいなかったので、そろそろコーチをつければ、もっとよくなるんじゃないかという考えが出てきていた時期です。迷い、ではないですね。もっと上を目指したい、という気持ちでした」との思いで臨んだシーズンだった。

    ■2週連続優勝がかかっていたが、体調は今ひとつ■

    前週、千葉で行われた廣済堂レディスで、シーズン初優勝。2週連続優勝をかけて現地入りしていた。だが、体調は今ひとつ。風邪気味で、だるさを感じながら試合に入った。舞台は徳島県のグランディ鳴門GC36。淡路島と四国を結ぶ大鳴門橋からほど近く、渦潮までは見えないが、瀬戸内海を望む美しいコースだ。

    初日、2日目はプレーに体調の影響はなかった。5アンダーで木戸富貴が首位に立った初日は4打差9位タイ。2バーディ・1ボギーとまずまずの内容だった。2日目も、ひとつスコアを伸ばして通算2アンダー。首位を並走する大場美智恵、中嶋千尋には2打差、木戸には1打差の4位タイで最終日は逆転優勝を狙える位置にいた。

    ところが、その夜に状況が一変した。体調が一気に悪くなったのだ。節々が痛みだし、熱を測るとなんと40度。仲のいいトレーナーに助けを求め、持ってきてもらった解熱剤を服用した。しばらくは薬が効いて熱が下がるが、時間が経つと、また熱は上がってしまう状態。熱でほとんど眠れなかった。

    ホテルのテレビに映っていたのは、全米女子オープン。デイライトセイビングタイム(サマータイム)で、時差が13時間あるノースカロライナ州のパインニードルズロッジ&GCで、不動裕理が奮闘する姿があった。「眠れないから、夜中にそれをなんとなく見ていて。『不動ちゃん、頑張ってんな〜』なんて思ってました」。ちなみに、この晩、高村が見たのは第3ラウンド。翌日の最終日を終えて不動は12位タイに入った。

    ■最終日はアドレスするだけでフラフラする状態■

    眠れなくとも、夜は明ける。病状がまったく好転しないまま、朝を迎えた。棄権することも考えたが、不動の頑張る姿を見たこともあり「せっかく優勝争いしているんだから」と、プレーすることを決めた。

    スタート前に解熱剤を服用して臨んだ最終日。アドレスするだけでフラフラする状態だった。だが、体調とは関係なく、1番でバーディを奪う幸先のいいスタート。9番もバーディとして通算4アンダーで折り返した。首位のふたりが伸び悩む中、バックナインに入ってからもプレーは順調だった。14番、15番で連続バーディ。最終18番もバーディとして、通算7アンダー。気がつけば、中嶋に3打差をつけて優勝していた。

    「ただただボールを打つことしか考えていませんでした。具合いが悪いから、早く終わりたい気持ちしかない。その年、1年間契約していたキャディーさんを帯同していたのですが、本当に助けてもらって回り切った感じです。距離と番手は自分で決めるけど、ラインは完全に任せていました。いま思えば、体調が悪くてリキミがなかったんでしょう。余計なことを考えず、シンプルなスイングができていたのが一番よかったんじゃないでしょうか」という18ホールだった。

    ■上がり5ホールは「ほとんど記憶がない」■

    プレーしたのは自分なのに、内容はほとんど覚えていない。それどころか天候すら記憶にないほどだ。「とにかく暑かったけど、それが熱のせいなのか、天気のせいなのかもよくわからなかった」という状態だった。

    薬が切れかけた上がり5ホールは「ほとんど記憶がありません」というほど、特にフラフラだった。ウイニングパットとなった18番のバーディも、「優勝よりも打つことしか考えていなかった。完全に意識飛び気味でした。打ったら入った、ってことしか覚えていません」と話す。

    体調が悪いと余計な力が入らずいいプレーができるというのは、プロでもよく聞く話ではあるが、その究極のような優勝劇だった。ホールアウト後は、優勝者として表彰式やインタビューなどをしっかりとこなしてそのまま帰京。病院に直行したが、翌々日には元気になっていた。さすがに翌週の試合には出ていないが、回復の速さは29歳という当時の年齢と、長年のトレーニングと練習で培った体力があったからだろう。

    熱との戦いを乗り越えて2週連続優勝を成し遂げた高村は、その後に向かって様々な試行錯誤を繰り返したが、残念ながら、これを限りに優勝とは縁がない。スイング改造をしようとコーチについたが、自分のイメージを変えることができず「迷走が始まった」と振り返る。

    「今、思えばあんなふうにリキまず、余計なことを考えないでプレー出来れば、スイング改造なんて必要なかったかもしれませんね」。21年が過ぎた今、感慨深く振り返る記憶に残る戦いだった。
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