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    「面白くなってきた」とピンチも楽しんだツアー4勝目 中嶋千尋の2002年富士通レディース【名勝負ものがたり】

    歳月が流れても、語り継がれる戦いがある。役者や舞台、筋書きはもちろんのこと、芝や空の色、風の音に至るまで鮮やかな記憶。かたずをのんで見守る人々の息づかいや、その後の喝采まで含めた名勝負の数々の舞台裏が、関わった人の証言で、よみがえる。

    配信日時:2022年10月11日 23時00分

    • JLPGA
    中島千尋「優勝争いは大好物」(写真提供:中島千尋)
    中島千尋「優勝争いは大好物」(写真提供:中島千尋)
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    「面白くなってきたなぁ」。優勝争いの大詰めでボギーを叩くピンチにも、中嶋千尋はギャラリーのような気持ちで試合を眺めていた。

    今週、開催される『富士通レデイ―ス』。同じ東急セブンハンドレッドクラブ西コース(千葉県)を舞台に、今から20年前の2002年大会は最後まで激戦が続いていた。その主役が、初日に8アンダー・1ボギーで首位に立った中嶋だった。

    2日目も3アンダーでプレーしたが、通算12アンダーまでスコアを伸ばした曽秀鳳(台湾)に首位の座を譲った。2打差で曽を追走しながら、通算7アンダーで追い上げを図る小野香子と3人の最終組は激しい優勝争いを繰り広げた。

    ■「大変だというより、面白くなってきた」と思っていた■

    中嶋が主導権を握っていた。6番からの怒涛の4連続バーデイで通算14アンダー。一気に曽を抜き去り、単独首位でバックナインに突入していた。1バーディ・1ボギーで静かにプレーしている曽とは2打差、ジワジワと追い上げる小野との差は5打あった。

    流れが変わったのはバックナインに入ってすぐだった。中嶋が11番をボギーにした直後、12番で曽がバーディ奪取。通算13アンダーで首位に並んだ。13番ボギーで再び1打ビハインドとなるが、小野も10番と13番を取って11アンダー。2打差に迫っていた。

    静かにパーを重ねる中嶋。15番で曽、小野がボギーとしたことで、優勝が近づいたかに見えた。残り2ホールで曽と2打差、小野とは3打差。迎えた17番は、186ヤードのパー3。ティショットをグリーン左にはずした中嶋はボギーを叩いてしまう。小野はバーディ。パーの曽とともに1打差の11アンダーで中嶋に迫る。

    「後からテレビの録画を見たら、解説の戸張(捷)さんが『いやぁ。中嶋は大変なことになったと思ってるでしょうね』って言ってたんです。確かにピンチだったけど、お客さんには面白くなったはず。私もギャラリー気分だったんです。『面白くなってきたなぁ』って。『こっからが勝負だな』とテンションも上がってきていました。キャディにも『面白くなってきたね』って言ったんですよ」と笑う。

    勝負どころでのこの心模様は、中嶋千尋という人ならではかもしれない。

    1988年『ダンロップレディース』で4人プレーオフを制して初優勝した後、米ツアーを経験し、一時はシード権を失いながらも戦い続けていたこともあった。体もボロボロになり「これが最後」と思い定めた98年のシーズンに、『健勝苑レディス・道後』で10年ぶりのツアー2勝目を挙げた。34歳になっていた。

    ■優勝争いは大好物■

    これで生来のポジティブな気持ちを取り戻して、2002年の『東洋水産レディス北海道』でツアー3勝目。同じシーズンの終盤が、この『富士通レディース』だった。「優勝争いは大好物。ゴキゲンで18番に向かいました」と、勝負のかかる最終ホールに立ったときも、笑顔を見せていた。

    第2打はグリーン左奥のラフ。左足下がりでツマ先下がりという複雑なライからのアプローチが残った。なかなか考えがまとまらない。最終的には「ロブショットしかない」と決断したが、イメージが出るまで何度も素振りを繰り返した。その甲斐あって「会心のショット」でしっかりと寄せてパーセーブ。1打差で優勝を決めた。

    「本当に気持ちよかった」というツアー4勝目には、面白いおまけもついてきた。両親に優勝報告の電話をすると、父に言われた。「千尋、17番で面白くなったと思っただろう」と。誰もが追い詰められたと思ったシーンで、まったく逆にポジティブだった娘の心中を、見ていたかのように父は言い当てた。

    いや、分かっていた。その父も今はない。「どうして分かったのか、もっと聞いとけばよかったと思いますね」。幼いころ「何をやってもビリだった」(中嶋)という娘を「千尋は大器晩成だな」と愛情いっぱいに育てた両親。「優勝するとかしないとかにこだわることなく、他の選手のこともいつも応援してくれていた」という。父の座右の銘は「愛情は平和の源」。そんな父の思い出にもつながる優勝でもあった。(文・清流舎 小川淳子)
    「面白くなってきたなぁ」。優勝争いの大詰めでボギーを叩くピンチにも、中嶋千尋はギャラリーのような気持ちで試合を眺めていた。

    今週、開催される『富士通レデイ―ス』。同じ東急セブンハンドレッドクラブ西コース(千葉県)を舞台に、今から20年前の2002年大会は最後まで激戦が続いていた。その主役が、初日に8アンダー・1ボギーで首位に立った中嶋だった。

    2日目も3アンダーでプレーしたが、通算12アンダーまでスコアを伸ばした曽秀鳳(台湾)に首位の座を譲った。2打差で曽を追走しながら、通算7アンダーで追い上げを図る小野香子と3人の最終組は激しい優勝争いを繰り広げた。

    ■「大変だというより、面白くなってきた」と思っていた■

    中嶋が主導権を握っていた。6番からの怒涛の4連続バーデイで通算14アンダー。一気に曽を抜き去り、単独首位でバックナインに突入していた。1バーディ・1ボギーで静かにプレーしている曽とは2打差、ジワジワと追い上げる小野との差は5打あった。

    流れが変わったのはバックナインに入ってすぐだった。中嶋が11番をボギーにした直後、12番で曽がバーディ奪取。通算13アンダーで首位に並んだ。13番ボギーで再び1打ビハインドとなるが、小野も10番と13番を取って11アンダー。2打差に迫っていた。

    静かにパーを重ねる中嶋。15番で曽、小野がボギーとしたことで、優勝が近づいたかに見えた。残り2ホールで曽と2打差、小野とは3打差。迎えた17番は、186ヤードのパー3。ティショットをグリーン左にはずした中嶋はボギーを叩いてしまう。小野はバーディ。パーの曽とともに1打差の11アンダーで中嶋に迫る。

    「後からテレビの録画を見たら、解説の戸張(捷)さんが『いやぁ。中嶋は大変なことになったと思ってるでしょうね』って言ってたんです。確かにピンチだったけど、お客さんには面白くなったはず。私もギャラリー気分だったんです。『面白くなってきたなぁ』って。『こっからが勝負だな』とテンションも上がってきていました。キャディにも『面白くなってきたね』って言ったんですよ」と笑う。

    勝負どころでのこの心模様は、中嶋千尋という人ならではかもしれない。

    1988年『ダンロップレディース』で4人プレーオフを制して初優勝した後、米ツアーを経験し、一時はシード権を失いながらも戦い続けていたこともあった。体もボロボロになり「これが最後」と思い定めた98年のシーズンに、『健勝苑レディス・道後』で10年ぶりのツアー2勝目を挙げた。34歳になっていた。

    ■優勝争いは大好物■

    これで生来のポジティブな気持ちを取り戻して、2002年の『東洋水産レディス北海道』でツアー3勝目。同じシーズンの終盤が、この『富士通レディース』だった。「優勝争いは大好物。ゴキゲンで18番に向かいました」と、勝負のかかる最終ホールに立ったときも、笑顔を見せていた。

    第2打はグリーン左奥のラフ。左足下がりでツマ先下がりという複雑なライからのアプローチが残った。なかなか考えがまとまらない。最終的には「ロブショットしかない」と決断したが、イメージが出るまで何度も素振りを繰り返した。その甲斐あって「会心のショット」でしっかりと寄せてパーセーブ。1打差で優勝を決めた。

    「本当に気持ちよかった」というツアー4勝目には、面白いおまけもついてきた。両親に優勝報告の電話をすると、父に言われた。「千尋、17番で面白くなったと思っただろう」と。誰もが追い詰められたと思ったシーンで、まったく逆にポジティブだった娘の心中を、見ていたかのように父は言い当てた。

    いや、分かっていた。その父も今はない。「どうして分かったのか、もっと聞いとけばよかったと思いますね」。幼いころ「何をやってもビリだった」(中嶋)という娘を「千尋は大器晩成だな」と愛情いっぱいに育てた両親。「優勝するとかしないとかにこだわることなく、他の選手のこともいつも応援してくれていた」という。父の座右の銘は「愛情は平和の源」。そんな父の思い出にもつながる優勝でもあった。(文・清流舎 小川淳子)
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