先週行われた国内女子ツアーの2025年シーズン開幕戦「ダイキンオーキッドレディス」の会場では、オフにテストを重ねた新クラブを携えた選手たちの姿や話を見聞きする機会が多かった。各メーカーの新作がずらりとそろい、それが大きな話題になるのは、この時期の“恒例行事”ともいえる。
その一方で、今年は年初から渋野日向子の決断により『クラブ契約フリー』という言葉にも注目が集まった。レギュラーツアーで戦う選手の多くは、特定のクラブメーカーと契約を結び、用具の提供やサポートなどを受けているが、フリーの選手はメーカーを考えずに自由にクラブを選ぶことができる。今季の国内女子ツアーでも通算4勝の櫻井心那が、心機一転、クラブ契約を外し、自分で選んだギアたちとともにシーズンインを迎えていた。
「これまで他のメーカーのクラブを打ったことがなかったし、興味がありました」と、その変化の理由について明かす。オフにはこれまでとは異なるアプローチでクラブテストを重ねたという。アイアンやボールなど、前契約先の住友ゴム工業(ダンロップ)の製品も多かったが、1番、3番、5番ウッドがタイトリストの『GT2』になるなど、その取り組みの跡もはっきりと見てとれた。
“クラブを自由に選べる”という選択肢は、選手にとって、どのような効果をもたらすのか? 自由度が増すということは、選択肢が増え“すぎる”ということにもつながりそうではあるが、その辺りも含め今年でフリー2年目を迎える野澤真央に、詳しく話を聞いてみた。
野澤は昨季の開幕前にミズノを離れ、そこから自分でクラブの試行錯誤を重ねている。「最新作は先に契約選手たちの手に渡るので、入手できるタイミングは遅くなります」という部分は、やはりメーカーと契約している時と異なる。ただ、数多あるクラブから自分に合う一本を選ぶ作業については「楽しい」と話す。
野澤の言葉にあるように契約を結ぶ選手たちは、各社が自信を持って開発した最新作をまだ世に出ていない段階で手に入れて、その性能をいち早く試すことができる。さらに、会場にいるクラブ担当者たちに意見を伝え、それがすぐさま反映されたクラブに調整してもらえるなど、バックアップ体制が整っている。こう見ると、メリットは大きい。
クラブ契約フリーになった時、選手にもたらされる効果は、やはり「自分で選び放題」という部分になる。2015年のプロテストに合格し、20-21年シーズンからシードを取り続けている野澤は、会場で各メーカー担当者ともすでに顔なじみ。それゆえ、さまざまな情報を入手できる環境も整っている。
それでもクラブメーカーの数、さらにシャフトとの組み合わせなども考慮すると、やはりそこから最適解を見つけるのは難しいようにも感じる。ただ、野澤はそんな考えを聞き、“経験が大事になる”と私見を述べた。「いろいろなものを試す中で、“自分にはこういうタイプは合わない”とか、傾向を見つけられるんです」。ただ野澤の場合は、「ちょっと打って球筋が違ったら、すぐに(テストを)やめちゃう。私自身あまり迷わないタイプなんです」という性格が、この生活を後押ししている部分も大きい。
野澤はダイキンの会場にも、昨年まで使用していたものと、新たにテストを重ねてきたアイアンの2セットを持ち込み、練習ラウンドで“最終テスト”を行った。このようにバッグに複数メーカーのクラブがささっているのは日常茶飯事だ。自宅に保管しているクラブの数も、「めっちゃあります。自分でも分からなくなるくらい」というほど。新作が出れば、「どんどん打っていきたい。どれだけいいものなのか」と常にアンテナも張っている。そして、多くの試合がクラブの実戦テストの場も兼ねている。
「直感で、見て、打って『いい』となれば、決めるのは早い」という“即決”の性格もあるが、野澤にとって、クラブ選びは「圧倒的に楽しい」作業だという。そういえば「ホンダLPGAタイランド」の会場で、渋野も「(クラブ選びは)楽しいですね。ヘッドやシャフトによって、出るボールも、打感も違う。それをいろいろ試せるのは、楽しいと思っています」と話していた。どちらが“いい”、“悪い”ということではない。クラブへのアプローチも選手それぞれだ。(文・間宮輝憲)