最大瞬間風速15.4m/sを記録し、それに加え強い雨も降った今季の国内女子ツアー開幕戦「ダイキンオーキッドレディス」の大会初日。タフなコンディションのなか、2オーバーでホールアウトした申ジエ(韓国)に話を聞きに行った。シーズン初戦とあって、あと2勝まで迫った永久シード(通算30勝)獲得への思いなどについて質問を用意していったのだが、そこで、かつて世界ランク1位にも立った36歳が、いつもと変わらないにこやかな表情で話した言葉の数々が印象に残った。
「新しい選手もたくさんプレーするから、今までとは会場の雰囲気が違うなと感じました。そのなかで、まだ全体の流れというものが把握できていない。そういった部分も見ながら調整していく必要がありますね」
今年の女子ツアーは、昨季年間女王に輝いた竹田麗央や、2023、24年と2年連続で女王の座についた山下美夢有らが、米国ツアーに主戦場を移した。今回はこちらも米国で戦うことになった明愛、千怜の岩井姉妹は出場したが、昨年のメルセデス・ランキングトップ5のうち4人が抜ける事態になっている。ダイキン前までの4人の合計勝利数は34勝。米下部ツアーを新天地にした原英莉花(ツアー通算5勝)も含めると、さらにその数字は大きくなる。
2009年には米国ツアーで賞金女王にも輝き、14年から日本で戦い続けてきたジエは、これまでとは違うムードをそのコースから感じとった。少しおどけながら、「昨年、上位にいた選手たちが海外に進出していったけど、新しい選手たちも、とてもいいプレーをしています。その選手たちを“しっかりと”見ていきたいですね」とも。昨年プロテストに合格したばかりのルーキーも6人が出場した会場で、少しワクワクしているようにも見えた。
昨年は夏に開催されたパリ五輪出場を目指し、積極的にメジャーなど海外の試合に挑戦。8月にスコットランドのセント・アンドリュース オールドコースで開催された「AIG女子オープン」(全英)では、2位にもなった。今年の海外試合については「全米(女子オープン)と全英は出たい。外国の選手のプレーを見ることは、とても刺激になるので」というが、基本的には日本に軸足を置く意思を明かす。
そして話のなかでは、こんな“危機感”も打ち明ける。永久シードについて聞いた時のことだ。
「私はいつも、自分が準備しただけの結果が欲しい。合宿も精いっぱい頑張ってきました。でも日本ツアーのレベルは上がっているし、頑張っていれば優勝できるというわけではない。頑張り続けるしかないですね」
毎年、プロテスト合格者が記入するアンケートの『憧れるプロゴルファー』という項目には、必ずといっていいほど“申ジエ選手”という名前が見られる。そのことをジエ本人に伝えると、うれしそうに「頑張ります」と言ってニッコリ。そして、こんな思いが語られた。
「私は今年でプロになって20年。新人の頃の気持ちというのは、とても昔のことのように感じます。ただ、そうやって『憧れ』と言ってくれる選手たちには、私とプレーした時、もし私にいいところがあるのなら、それをどんどん持ち帰って、自分のいいプレーにつなげてもらいたいです。私もいいゴルフを彼女たちにたくさん見せないといけないですね」
第一線から退いた上田桃子も含め実力者が抜け、ともすれば“過渡期”と言われる時代に突入するかもしれない国内女子ツアーだが、若い選手の前に立ちはだかる百戦錬磨の実力者は健在。初日にオーバーパーを叩きながら、最終的には優勝争いに食い込んだ姿から衰えは感じられない。
「成長はひとりではできません。日本のゴルフがよくなったのは、周りが強くなって、みんなで一緒にレベルアップができたから。ひとりでポンと上がるのは難しいんです。日本のゴルフは今もレベルは高いけど、まだまだ成長できると思います。私も1年間、安心できませんね」
その試合では日本ツアー出場300試合目にして、不動裕理の13億7262万382円を抜き、生涯獲得賞金歴代1位(13億8074万3405円)にもなった。目標に掲げる残り2勝だって、通過点に過ぎない。今後もワールドクラスのベテランが、若手選手の壁になる姿を見せるはず。そしてそれが、さらなるツアー活性につながっていく。(文・間宮輝憲)