室田淳の優勝に終わった68歳以上の日本一を決める「日本プロゴルフゴールドシニア選手権」。その大会に特別な思いを持って臨んでいる選手がいた。前立腺ガンの手術からの復帰戦となった75歳の佐野修一だ。
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昨年12月に前立腺ガンの宣告 手術すべきか悩む佐野修一の心を揺さぶった杉原敏一の言葉
室田淳の優勝に終わった68歳以上の日本一を決める「日本プロゴルフゴールドシニア選手権」。その大会に特別な思いを持って臨んでいる選手がいた。前立腺ガンの手術からの復帰戦となった75歳の佐野修一だ。
配信日時:2023年10月2日 22時30分
室田淳の優勝に終わった68歳以上の日本一を決める「日本プロゴルフゴールドシニア選手権」。その大会に特別な思いを持って臨んでいる選手がいた。前立腺ガンの手術からの復帰戦となった75歳の佐野修一だ。
前年のチャンピオンは初日を「73」の1オーバー・14位タイでスタート。「3アンダー、4アンダーで回れば上位を目指せる」と臨んだ最終日は「77」と崩して、トータル6オーバー・19位タイで復帰戦を終えた。ホールアウト後は「復活できたんだけど、何か情けなくてな。でもやっぱり難しいな」とこぼした。
自覚症状はなかった。
3カ月に1度病院で行っていた血液検査で数値に異常が見つかり、前立腺ガンと診断されたのは昨年の12月。「すぐ手術しないとダメだと医者にいわれた。3年間も検査に通っていて何の兆候もなかったんだよ。頭に来て手術なんてしないと思った」。3カ月前にはどこにも異常がなかったはずが、突然の宣告。ガンはいつ転移してもおかしくない危険な状態だったが、病院への不信感もあり、すぐに手術はしなかった。ホルモン療法でガンの増殖を抑えながら、今年3月のシニアツアー開幕戦、「金秀シニア 沖縄オープン」の68歳以上の部で優勝を飾った。
ホルモン療法の副作用は「胸が大きくなってミキミキと痛かった。女にしちゃうんだから」と、思った以上に苦しかった。同時に、大好きなゴルフができなくなっても手術すべきか、手術をしないでプレーし続けるか、心はずっと葛藤していた。「生きた心地はしなかった。転移したら転移したらで、あと4、5年生きられればいいかなと思った」と死まで覚悟したという。
死ぬことより大事だったのは、やはりゴルフの試合。昨年12月にガンを宣告されても、今年5月の「関東プロゴルフゴールドシニア選手権大会」(千葉県・船橋カントリークラブ、5月16~17日)と、「マイナビシニア&レディースカップ」(千葉県・藤ヶ谷カントリークラブ、5月20~21日)だけは「どうしても出たかった」。それまで手術をすることは考えられなかった。「去年の日本ゴールドシニア優勝の権利があるから、(今年の予選を兼ねる)関東ゴールドシニアには出る必要がないんだけど、68歳になった若い仲間が出るし、一緒に飯を食ったり、俺も楽しみだった」。
そのマイナビシニアでは杉原敏一と話す機会があった。杉原の父でレギュラーツアー通算28勝の輝男もまた、97年に前立腺ガンが発覚。現役にこだわり、手術をせずにホルモン療法で10年以上プレーした。しかし、08年にはガンの転移が見つかり、11年12月に74年の生涯を閉じた。「親父さんはどうだった?」と佐野が聞くと、「死に際になったら手術をすれば良かったとこぼしていた」と杉原はいう。佐野の心は大きく揺さぶられた。
ほぼ同時期に、前立腺ガンの全摘出の手術を経験した知り合いの話を聞き、「私の手術をした先生を紹介するよ」と、ロボット手術の権威だった先生のもとで手術を受けることを決めた。ロボット手術は人が切るよりも手術時間が圧倒的に短く、回復も早い。術後も問題なくゴルフができることも分かった。「6月初めに手術すれば、9月末の日本ゴールドシニアにはしっかり打てるだろう」と逆算し、6月5日に手術を受けた。
主治医の指示は「1カ月は絶対安静。酒もゴルフも禁止」。それでも佐野は手術から2週間でアプローチを開始し、1カ月を過ぎた頃にはフルショットを打っていた。「お腹にいっぱい穴が空いているからチクチクする」。それ以上に苦しんだのは“尿漏れ”だった。前立腺を全摘出した影響で、力を入れて振ると尿が漏れてしまう。トレーニングで体力を早く回復させたいと思っても、「漏れるから力を入れられない。それがものすごく悔しくて」と、もどかしい日々を過ごした。
以前よりもその量は少なくなったが、手術から4カ月近く経った今も尿漏れ用のパットは欠かせない。「もっとやれると思っていたし、もうちょっと元気になっているかなと思っていた。でも実際にフタを開けてみたら思うようにはいかなかった。復活できたんだけど、何か情けなくてな。要するに失禁だよ。本当に気分が乗らない」。
しかし、いつ転移してもおかしくない不安から解消され、2日間の競技を完走できたことには「ものすごくうれしいよ。これでまた練習する張り合いができた。あそこでショットが乱れたから、もっとこういうを練習しなくちゃいけないなっていうのが、いま頭の中にある」と声は明るい。実際、初日のラウンド後には練習場で球を打つ佐野の姿があった。
前年大会を制したことにより、今週行われる国内シニアメジャー「日本プロゴルフシニア選手権」の出場資格を持っていたが、「無理だ、まだ」と回避。次はシニアツアーの「トラストグループカップ 佐世保シニア」(10月14~15日、長崎県・佐世保カントリー倶楽部)に出場する。「まだまだやりたい。やれるだけやろうと思っている」。今後のゴルフ人生に思いを馳せながら、不撓不屈の精神で75歳は再びフェアウェイを歩き始めた。(文・下村耕平)
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