<全米女子オープン 最終日◇2日◇CCオブ・チャールストン(米国サウスカロライナ州)◇6515ヤード・パー71>
日曜日の夕闇迫るグリーンで大粒の涙を流し、歓喜の瞬間を迎えたのは韓国のイ・ジョンウン6だった。米国女子ツアー本格参戦1年目でツアー初優勝を最も権威がある世界最強決定戦で決めたジョンウン6。韓国ツアー6人目のイ・ジョンウンとして、女子ゴルフ界の歴史に名を刻んだ。
フランチェスコの兄エドアルド・モリナリが公開したスロープレーヤー・リスト
今大会は、開幕前から多くの話題を呼んだ。サウスカロライナ州チャールストンで初めて行われた大会は、練習日から酷暑に見舞われた。現地に到着した大会前の月曜日早朝、全米ゴルフ協会(USGA)の広報担当が「アメリカのオーブンへようこそ」と迎えてくれた段階で35度。連日40度に迫る熱波。5月としては、当地の最高気温を更新する毎日が続いた。
多くの選手は早朝から練習をはじめ、昼前にはホテルや宿舎に帰り、十分な休息をとって本番に備えた。そんななか、現地入りした翌日の火曜日。あるニュースが会場を駆け巡った。かつてはタイガー・ウッズ(米国)のコーチを努めたハンク・ヘイニーが、差別発言で批判を浴び、発言をした当該ラジオ番組を降板するという事件が起きた。
「今回も韓国人選手が勝つだろう。名前はよくわからないが、LEEとでもいっておけば当たるだろう」。これに対しては韓国系米国人のミッシェル・ウィーがSNSでかみつき、そのほかの選手、関係者、米LPGAもヘイニーに対する不快感を表した。騒動となってしまったのを受けて、ヘイニーは自身のSNSで謝罪文を掲載したが、時すでに遅しだった。
そんな騒動もありながら、結局優勝はイ(LEE)だったのは皮肉としかいいようがない。ジョンウン6は最終日、同じく優勝争いを繰り広げた比嘉真美子との2サムで回り、うまさと強さを見せて栄冠に輝いたのだが、優勝会見でこの話題を振られても、「私がいうことは何もない」と大人の対応を見せた。見事な優勝、そしてヘイニーの言葉に対する反逆の優勝であると勝手に思ってしまった。
実はもうひとつ『LEE』騒動が起きていた。すでに報道もされているが、大会3日目、アマチュアのアンドレア・リー(米国)がスロープレーによる1罰打を科せられた。15番で1度目のバッドタイム宣告を受けると、16番でも規定秒数を超えたとしてペナルティをいい渡された。
アンドレアは出場アマチュアの中でトップクラス。世界女子アマチュアランキング4位で、将来が有望視されている。ウッズやトム・ワトソン(米国)も在籍したスタンフォード大学ではチームの中心選手。韓国生まれの父の影響でゴルフを始め、今では米国選抜など数々の好成績を残し、米国では有名人のひとり。そんな彼女を襲ったペナルティには、ゴルフ界が反応した。
そもそもこの日は第2ラウンドの順延を受けて、9時31分から1ウェイ3サムでスタート。難コースに強風と厳しいコンディションの中でのプレーに、最終組は前半のプレーに3時間を費やした。トップ2組は2サムだったが、そのほかの組はほぼ5時間を超え、最も時間を要した組は5時間45分。そんな状況で、スロープレーのペナルティがリー“たった”ひとりに科せられた。
ティでの待ちは当たり前。10組以上が警告を受けたことからも、リー以外にも遅い選手が目立った。元々米ツアーメンバーはプレーが遅いことで有名。オナーが打つ間に自分の距離や番手を決めるのが当たり前と感じている我々日本人からすれば、少々イライラが募ってしまう。「タンクが3の状態になった」とは、決断、素振り、すべてにおいてスピードが速い比嘉の言葉。要は、要領が悪い選手が多い。そんななかで、なぜリーだけに、という疑念は晴れずじまいだ。
USGAは公式になぜリーだけなのかということには言及しなかったが、そんなリーに、最終日のラウンド後、話を聞いた。「正直納得はしていない。私はプレーが遅いとはいわれたことはない。今でもおかしいと思う」とした上で、「1打損したけど、スコアも悪かったのであまり影響はなかったかな」と最後は大人の発言をしたが、悔しさはあるだろう。
世界的に叫ばれるスロープレー撲滅。ゴルフは18ホールを日中の半分をかけて回る、ただでさえ長いスポーツ。ホール短縮やスピードアップの提言が何年も続いているが、個々のプレーファストの意識向上だけでも、相当な短縮にはなる。そんな意識が薄い選手が他に大勢いたはず。アンドレアは確かに規定を超えたかもしれない。でも、見ているだけでも規定の秒数を超えている選手は大勢いた。
罰するなら、本来は規定を超えた全員のはず。しかし、決勝ラウンドとはいえ70人がプレーするフィールドではそれが難しいこともわかる。そんななかでの個人攻撃ともいえる今回の措置。USGAが見せしめで行ったとは考えたくないが、もっと注意喚起する方法があったのではないかと思う。(文・高桑均)
日曜日の夕闇迫るグリーンで大粒の涙を流し、歓喜の瞬間を迎えたのは韓国のイ・ジョンウン6だった。米国女子ツアー本格参戦1年目でツアー初優勝を最も権威がある世界最強決定戦で決めたジョンウン6。韓国ツアー6人目のイ・ジョンウンとして、女子ゴルフ界の歴史に名を刻んだ。
フランチェスコの兄エドアルド・モリナリが公開したスロープレーヤー・リスト
今大会は、開幕前から多くの話題を呼んだ。サウスカロライナ州チャールストンで初めて行われた大会は、練習日から酷暑に見舞われた。現地に到着した大会前の月曜日早朝、全米ゴルフ協会(USGA)の広報担当が「アメリカのオーブンへようこそ」と迎えてくれた段階で35度。連日40度に迫る熱波。5月としては、当地の最高気温を更新する毎日が続いた。
多くの選手は早朝から練習をはじめ、昼前にはホテルや宿舎に帰り、十分な休息をとって本番に備えた。そんななか、現地入りした翌日の火曜日。あるニュースが会場を駆け巡った。かつてはタイガー・ウッズ(米国)のコーチを努めたハンク・ヘイニーが、差別発言で批判を浴び、発言をした当該ラジオ番組を降板するという事件が起きた。
「今回も韓国人選手が勝つだろう。名前はよくわからないが、LEEとでもいっておけば当たるだろう」。これに対しては韓国系米国人のミッシェル・ウィーがSNSでかみつき、そのほかの選手、関係者、米LPGAもヘイニーに対する不快感を表した。騒動となってしまったのを受けて、ヘイニーは自身のSNSで謝罪文を掲載したが、時すでに遅しだった。
そんな騒動もありながら、結局優勝はイ(LEE)だったのは皮肉としかいいようがない。ジョンウン6は最終日、同じく優勝争いを繰り広げた比嘉真美子との2サムで回り、うまさと強さを見せて栄冠に輝いたのだが、優勝会見でこの話題を振られても、「私がいうことは何もない」と大人の対応を見せた。見事な優勝、そしてヘイニーの言葉に対する反逆の優勝であると勝手に思ってしまった。
実はもうひとつ『LEE』騒動が起きていた。すでに報道もされているが、大会3日目、アマチュアのアンドレア・リー(米国)がスロープレーによる1罰打を科せられた。15番で1度目のバッドタイム宣告を受けると、16番でも規定秒数を超えたとしてペナルティをいい渡された。
アンドレアは出場アマチュアの中でトップクラス。世界女子アマチュアランキング4位で、将来が有望視されている。ウッズやトム・ワトソン(米国)も在籍したスタンフォード大学ではチームの中心選手。韓国生まれの父の影響でゴルフを始め、今では米国選抜など数々の好成績を残し、米国では有名人のひとり。そんな彼女を襲ったペナルティには、ゴルフ界が反応した。
そもそもこの日は第2ラウンドの順延を受けて、9時31分から1ウェイ3サムでスタート。難コースに強風と厳しいコンディションの中でのプレーに、最終組は前半のプレーに3時間を費やした。トップ2組は2サムだったが、そのほかの組はほぼ5時間を超え、最も時間を要した組は5時間45分。そんな状況で、スロープレーのペナルティがリー“たった”ひとりに科せられた。
ティでの待ちは当たり前。10組以上が警告を受けたことからも、リー以外にも遅い選手が目立った。元々米ツアーメンバーはプレーが遅いことで有名。オナーが打つ間に自分の距離や番手を決めるのが当たり前と感じている我々日本人からすれば、少々イライラが募ってしまう。「タンクが3の状態になった」とは、決断、素振り、すべてにおいてスピードが速い比嘉の言葉。要は、要領が悪い選手が多い。そんななかで、なぜリーだけに、という疑念は晴れずじまいだ。
USGAは公式になぜリーだけなのかということには言及しなかったが、そんなリーに、最終日のラウンド後、話を聞いた。「正直納得はしていない。私はプレーが遅いとはいわれたことはない。今でもおかしいと思う」とした上で、「1打損したけど、スコアも悪かったのであまり影響はなかったかな」と最後は大人の発言をしたが、悔しさはあるだろう。
世界的に叫ばれるスロープレー撲滅。ゴルフは18ホールを日中の半分をかけて回る、ただでさえ長いスポーツ。ホール短縮やスピードアップの提言が何年も続いているが、個々のプレーファストの意識向上だけでも、相当な短縮にはなる。そんな意識が薄い選手が他に大勢いたはず。アンドレアは確かに規定を超えたかもしれない。でも、見ているだけでも規定の秒数を超えている選手は大勢いた。
罰するなら、本来は規定を超えた全員のはず。しかし、決勝ラウンドとはいえ70人がプレーするフィールドではそれが難しいこともわかる。そんななかでの個人攻撃ともいえる今回の措置。USGAが見せしめで行ったとは考えたくないが、もっと注意喚起する方法があったのではないかと思う。(文・高桑均)