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    村口史子が語る渋野日向子の全英制覇 「あんな選手は見たことがない」【名勝負ものがたり】

    歳月が流れても、語り継がれる戦いがある。役者や舞台、筋書きはもちろんのこと、芝や空の色、風の音に至るまで鮮やかな記憶。かたずをのんで見守る人々の息づかいや、その後の喝采まで含めた名勝負の数々の舞台裏が、関わった人の証言で、よみがえる。

    配信日時:2021年8月16日 23時00分

    • LPGA
    • 渋野日向子
    (撮影:村上航)
    (撮影:村上航)
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    現地時間19日開幕のAIG女子オープン(〜22日、スコットランド、カーヌスティゴルフリンクス)を前に掘り起こすのは、日本の女子ゴルフの世界にセンセーションを巻き起こした2019年の同大会。大会初出場だった渋野日向子の見事な優勝劇を、テレビのラウンドレポーターとして目の前で目撃した村口史子が、記憶の糸をたどる。

    「試合をしているうちにどんどんファンを増やしていっているのがわかりました。最初は日本人の団体客が注目していただけでしたが、徐々に地元の人たちも応援し始めた。優勝争いをしていても笑顔で、ホールとホールの間のインターバルではギャラリーとハイタッチをしていたほど。他の選手にはなかなかできないことです」。渋野がメジャータイトルを手にするまでの様子をつぶさに見た村口が、率直な感想を口にする。

    2019年8月。英ミルトンキーンズのウォーバーンゴルフクラブで行われた全英女子オープンは、渋野にとって初めてのメジャートーナメントだった。前年7月にプロとなった渋野は、まだ日本でのシード権もなく、出場できる試合も限られたまま2019年のシーズンに臨んだ。それが、5月のワールドレディスで初優勝すると、8週後の資生堂アネッサレディスで早くも2勝目を挙げて、全英出場権を手にした。

    「ロンドンから車で40分くらいのウォーバーンは(インランドで)リンクスでもなく、日本のコースっぽい部分もある。渋野さんは、初の海外でしたが、調子が悪くないんだろうな、という感じでのびのび楽しそうにリラックスしてやっていました。本人もそうだったでしょうけれども(取材している)私も、渋野さんだから、とか、全英だから、とか意識することなく試合が始まりました」(村口)。初日、6アンダーで首位のアシュリー・ブハイ(南ア)に1打差2位の好発進をすると、2日目はブハイとの差は3打に開いたものの、スコアを3つ伸ばして単独2位は変わらない。

    前述のように、笑顔と、小気味よいテンポのプレーぶりで、周囲をも笑顔にし、味方につけながら、渋野は優勝が狙える位置で決勝ラウンドに臨むことになる。

    決勝ラウンドに入って最終組でプレーしても、渋野のまわりの雰囲気は相変わらず。笑顔でファンを巻き込んでいくようだった。

    3日目には、5アンダーでプレーして単独首位に立つ。トータル14アンダーで2位のブハイとは2打差。ホールアウト後にはさすがに強い緊張を口にしていたが、メジャータイトルに最も近い位置で最終日を迎える。

    「最終日は、さすがに緊張しているのかな、と思いました。3番で4パットのダブルボギーを叩いたから。でも、すぐにボールが木に当たって出て来たりして『ラッキーだな』という感じはありました」。フロントナインで1つスコアを落として首位からは後退したものの、渋野のプレー態度は変わらない。「優勝を意識することはあったと思うけど、ボールは飛んでいて曲がらないのは大きかった。ダボを打ってもボギーを打っても、子供にハイタッチをしたりして気持ちのコントロールができているように見えました」。

    この週、ずっといいスコアが出ているバックナインに入って、スイッチが入る。「10番でいいバーディを取ってから、流れを自分に引き寄せた感じでした」。12番の短いパー4ではドライバーを握って1オンに成功。イージーバーディを奪う。自ら勝負に出たことがよくわかるプレーぶりだった。

    ラウンドレポーターとしてコースを歩いている時、村口は選手とできるだけ目を合わせないように気をつけていると言う。「目を合わせたり『ナイスバーディ』などと声をかけることで気持ちが変わってしまうと思うから」というのがその理由だ。良くも悪くも、選手の気持ちに介入してしまうことを避けたい。取材する時の心得だが、中には自ら積極的に話しかけたりする選手もいる。中でも渋野は人懐っこかった。「自分から普通に顔を合わせるし『いってきま〜す』というような雰囲気なんです。(メジャーの優勝争いをしている最終日も)ずっとそんな感じでした」と村口は驚きを口にした。

    13番、15番とバーディを重ね、トータル17アンダーまでスコアを伸ばしたが、前でプレーしているリゼット・サラス(米国)も順調にスコアを伸ばしている。「最後まで勝負の行方はわかりませんでした。ただ、18番でサラスが1メートルのバーディパットをはずしたのは、ギャラリーの反応で分かったと思います。最終組にカメラマンも一気に集まってきましたから」と、優勝への重圧が大きくのしかかる最終ホールを、サラスと並ぶトータル17アンダー首位で迎えた。

    メジャータイトルのかかる重要な場面。だが、渋野は最後まで自分のペースでプレーした。思い切りのいいティショットでフェアウェイを捉え、6メートルに2オン。優勝がかかった下りのスライスラインを、特に時間をかけることなくいつものテンポで打ってバーディ奪取。左手に持っていたパターを天につき上げ、自ら勝利を祝った。メジャータイトルを、初めての挑戦で手にした。

    世界中のメディアから“スマイリング・シンデレラ“と呼ばれるスーパーヒロイン誕生の瞬間。「(ウイニングパットは)どんなプロでもリズムが変わったり力が入ったりするものなのに、渋野さんは変わらなかった。彼女は緊張していないのかな、と思ったくらいです。上がり3ホールは本当に飛んで曲がらなかった。怖いもの知らずのプレーぶりでした。メジャーの取材もたくさんしていますが、あんな選手は見たことがない。終わってからも『私勝っちゃいました』という感じで、すごいことをした感じではなかった。伸び伸びプレーして、ゴルフを明るい陽のスポーツとして印象付けてくれたと思います」。

    日本で賞金女王も経験し、テレビレポーターとして取材経験豊富な村口も、あっけにとられた渋野のシンデレラストーリー。初挑戦で重圧が少ないと言うことはもちろんあったはずだが、それでも、異国のギャラリーを引き付け、味方にした渋野自身の魅力が、メジャータイトルを引き寄せたのはまちがいない。一気に大きく羽ばたいた渋野日向子の底力がここにある。(文・小川淳子)
    現地時間19日開幕のAIG女子オープン(〜22日、スコットランド、カーヌスティゴルフリンクス)を前に掘り起こすのは、日本の女子ゴルフの世界にセンセーションを巻き起こした2019年の同大会。大会初出場だった渋野日向子の見事な優勝劇を、テレビのラウンドレポーターとして目の前で目撃した村口史子が、記憶の糸をたどる。

    「試合をしているうちにどんどんファンを増やしていっているのがわかりました。最初は日本人の団体客が注目していただけでしたが、徐々に地元の人たちも応援し始めた。優勝争いをしていても笑顔で、ホールとホールの間のインターバルではギャラリーとハイタッチをしていたほど。他の選手にはなかなかできないことです」。渋野がメジャータイトルを手にするまでの様子をつぶさに見た村口が、率直な感想を口にする。

    2019年8月。英ミルトンキーンズのウォーバーンゴルフクラブで行われた全英女子オープンは、渋野にとって初めてのメジャートーナメントだった。前年7月にプロとなった渋野は、まだ日本でのシード権もなく、出場できる試合も限られたまま2019年のシーズンに臨んだ。それが、5月のワールドレディスで初優勝すると、8週後の資生堂アネッサレディスで早くも2勝目を挙げて、全英出場権を手にした。

    「ロンドンから車で40分くらいのウォーバーンは(インランドで)リンクスでもなく、日本のコースっぽい部分もある。渋野さんは、初の海外でしたが、調子が悪くないんだろうな、という感じでのびのび楽しそうにリラックスしてやっていました。本人もそうだったでしょうけれども(取材している)私も、渋野さんだから、とか、全英だから、とか意識することなく試合が始まりました」(村口)。初日、6アンダーで首位のアシュリー・ブハイ(南ア)に1打差2位の好発進をすると、2日目はブハイとの差は3打に開いたものの、スコアを3つ伸ばして単独2位は変わらない。

    前述のように、笑顔と、小気味よいテンポのプレーぶりで、周囲をも笑顔にし、味方につけながら、渋野は優勝が狙える位置で決勝ラウンドに臨むことになる。

    決勝ラウンドに入って最終組でプレーしても、渋野のまわりの雰囲気は相変わらず。笑顔でファンを巻き込んでいくようだった。

    3日目には、5アンダーでプレーして単独首位に立つ。トータル14アンダーで2位のブハイとは2打差。ホールアウト後にはさすがに強い緊張を口にしていたが、メジャータイトルに最も近い位置で最終日を迎える。

    「最終日は、さすがに緊張しているのかな、と思いました。3番で4パットのダブルボギーを叩いたから。でも、すぐにボールが木に当たって出て来たりして『ラッキーだな』という感じはありました」。フロントナインで1つスコアを落として首位からは後退したものの、渋野のプレー態度は変わらない。「優勝を意識することはあったと思うけど、ボールは飛んでいて曲がらないのは大きかった。ダボを打ってもボギーを打っても、子供にハイタッチをしたりして気持ちのコントロールができているように見えました」。

    この週、ずっといいスコアが出ているバックナインに入って、スイッチが入る。「10番でいいバーディを取ってから、流れを自分に引き寄せた感じでした」。12番の短いパー4ではドライバーを握って1オンに成功。イージーバーディを奪う。自ら勝負に出たことがよくわかるプレーぶりだった。

    ラウンドレポーターとしてコースを歩いている時、村口は選手とできるだけ目を合わせないように気をつけていると言う。「目を合わせたり『ナイスバーディ』などと声をかけることで気持ちが変わってしまうと思うから」というのがその理由だ。良くも悪くも、選手の気持ちに介入してしまうことを避けたい。取材する時の心得だが、中には自ら積極的に話しかけたりする選手もいる。中でも渋野は人懐っこかった。「自分から普通に顔を合わせるし『いってきま〜す』というような雰囲気なんです。(メジャーの優勝争いをしている最終日も)ずっとそんな感じでした」と村口は驚きを口にした。

    13番、15番とバーディを重ね、トータル17アンダーまでスコアを伸ばしたが、前でプレーしているリゼット・サラス(米国)も順調にスコアを伸ばしている。「最後まで勝負の行方はわかりませんでした。ただ、18番でサラスが1メートルのバーディパットをはずしたのは、ギャラリーの反応で分かったと思います。最終組にカメラマンも一気に集まってきましたから」と、優勝への重圧が大きくのしかかる最終ホールを、サラスと並ぶトータル17アンダー首位で迎えた。

    メジャータイトルのかかる重要な場面。だが、渋野は最後まで自分のペースでプレーした。思い切りのいいティショットでフェアウェイを捉え、6メートルに2オン。優勝がかかった下りのスライスラインを、特に時間をかけることなくいつものテンポで打ってバーディ奪取。左手に持っていたパターを天につき上げ、自ら勝利を祝った。メジャータイトルを、初めての挑戦で手にした。

    世界中のメディアから“スマイリング・シンデレラ“と呼ばれるスーパーヒロイン誕生の瞬間。「(ウイニングパットは)どんなプロでもリズムが変わったり力が入ったりするものなのに、渋野さんは変わらなかった。彼女は緊張していないのかな、と思ったくらいです。上がり3ホールは本当に飛んで曲がらなかった。怖いもの知らずのプレーぶりでした。メジャーの取材もたくさんしていますが、あんな選手は見たことがない。終わってからも『私勝っちゃいました』という感じで、すごいことをした感じではなかった。伸び伸びプレーして、ゴルフを明るい陽のスポーツとして印象付けてくれたと思います」。

    日本で賞金女王も経験し、テレビレポーターとして取材経験豊富な村口も、あっけにとられた渋野のシンデレラストーリー。初挑戦で重圧が少ないと言うことはもちろんあったはずだが、それでも、異国のギャラリーを引き付け、味方にした渋野自身の魅力が、メジャータイトルを引き寄せたのはまちがいない。一気に大きく羽ばたいた渋野日向子の底力がここにある。(文・小川淳子)
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