自らが設定したプロテスト合格までの“期限”は、あと2年。23歳の尾崎小梅は、さも当たり前というように、サラリとそんな話をする。それは18歳の時に、固く決意したことだ。
地元の長崎・佐世保中央高3年生の時、他の同級生たちと同様、進路を考えた。
「正直、その時はプロテストに受かる自信がなくて。選択肢は地元に残るか、研修生になるか、大学に入るかの3つ。私はその日の気分で動くタイプで、大学のゴルフ部は向いてないと思った。母子家庭なので、ずっと母親に頼るわけにはいかないという気持ちもありましたし、弟もいるし、実家を出て、どうにかして自分ひとりでやりたかった」
こうして親元を離れ、千葉県のコースで研修生になったのだが、母・美弥さんには“25歳まで”という期限を伝えていた。「区切りを決めないでダラダラするのは嫌だった。頑張れなくなっちゃいそうだと思ったので、キリよく25歳かなって。その気持ちは今も変わってません」。初心を忘れず、その決めごとを原動力にしてきた。
初のプロテスト受験は20歳のときだった。2021年、新型コロナウイルスの影響で延期された20年度の試験を受け、2次で敗退。同年11月の21年度テストでは最終まで進んだが、あと一歩及ばなかった。その後も22年は2次、23年は1次、昨年は2次で涙をのんだ。それでも、尾崎の明るさが消えることはなかった。
「去年の2次は、会場の兼ね合いで練習ラウンドが1回もできないままぶっつけ本番でプレーして、伸ばしあいについていけませんでした。でも、母親にずっと『絶対に受かると思う』って言ってたくらい、自信を持つことができました。それまではプロテストに落ちると、その年が終わるまで落ち込んでいたけど、去年は悲しいというよりも、テストが終わってからものすごくラウンドをしていました」
21年4月には研修生を辞め、自分でスケジュールを管理しながらプロを目指して日々、練習に明け暮れている。そしてこのタイミングで、25歳以下のプロテスト合格を目指す選手が研鑽を積む『マイナビネクストヒロインツアー』にも参戦。今、胸に抱いている自信は、ここでの経験が大きいと話す。
「一緒に試合に出ていた同級生や先輩がテストに合格し、活躍してるのを見て、『自分もできる』って思えるようになった。『その人たちに勝った試合もあったじゃん』とか。単純に試合に出る回数が増えたのも大事ですよね。研修生をやめて、自分が出たい試合に出られるようになりました」
そして今では、試合が「一番楽しい」と心から感じることができている。テレビカメラに追いかけられたり、スコア速報を見て自分の位置を確認しながらプレーするのが性に合っているという。『プロ向きの性格ですね』と言うと、「マイナビさんの試合で、『私、プロ向きかも』って思いました」と言って、大きな声で明るく笑う。
より充実した練習環境を整えるため、今年からクラウドファンディングも始めた。プロテストに一発合格し、現在プロで活躍する先輩ゴルファーからかつてもらった助言が、強く頭に焼き付いている。
「『オフは自分に投資する時期』と言われたことがあるんです。練習は自分が球を打ち込んだり、ラウンド終わりの練習グリーンでいくらでもできるけど、トレーニングや体のケアになると、“いくら払うか”が気になって躊躇(ちゅうちょ)することもある。怖がらずにどれだけ自分にお金をかけられるかが大事と言われて、ハッとしましたね」
そしてなによりも、クラウドファンディングは応援してくれる人たちの想いや声が“届く”ことが「とてもうれしいんです」と力になっている。返礼品のなかにはラウンドレッスン権など、直接、交流できるものもあるが、「ファンのみなさんと交流するのがすごく好き」という尾崎にとって、ここは感謝を伝えながら、楽しい時間を共有できる機会にもなる。
さらには、こんな想いも。「女子プロゴルフは人気があるけど、まだテストに受かっていない選手たちの出る試合がもっと認知されてほしい。テストに受かってなくても、コツコツと頑張ってる選手は多いので、そのことが広がるきっかけになればいいですね」。
今オフは、これまでの球を打ち続けるという調整法を変え、ラウンドを中心に据え“開幕”を目指している。ピークをしっかりとプロテストに合わせるための決断だ。冬枯れした芝を相手に、寒空の下でのプレーになるが、「意外とスコアはまとまっています」と手応えも感じ取っている。
「おととしから去年は、スイングのことで悩む時間が多くてラウンドが楽しくなかったんです。けっこう“闇期”でしたね」。明るさの中に、もちろん葛藤も抱えてきた。「今はプロテストだけを見ようと思って。試合結果が良くても悪くても、それは通過点。落ち込んだり、悩んだりすることを減らしたいです」。“25歳まで”の期限を考えると、受けられるプロテストは残り2回だが、「今年受かると思えています。まだ2回もあるっていう考え方ができてるんです」と焦りはない。
今年の目標は「それ以外、ないです」というプロテスト合格。そこへ向け、マイナビネクストヒロインツアーでも全力を尽くす。「プレー中は全部を見てもらいたいです。カメラに映る表情とかで、『あ、調子良さそうじゃん』とか思ってもらえるとうれしいです」。終始、笑顔で明るく前向きな性格が、自らが立てたカベを乗り越える力になる。(文・間宮輝憲)