黄金世代は1998年度生まれ、プラチナ世代は2000年度生まれ。今や20代前半が、女子プロゴルフ界をリードするのがあたり前となっている。その世代までにプロテストの狭き門をくぐりぬけ、なみいるプロたちと戦いながら、実力を開花させるためには、10代後半の時間をどのように過ごすのかが重要になるのは言うまでもない。
もしもアナタのお子さんがジュニアゴルファーで、プロになることを見据えて、日夜練習に励んでいるとしたら、親としてどんなサポートをしてあげられるだろうか。とりわけ義務教育が終わる、中学卒業後の進路は大きな悩みだ。できれば高校とゴルフを両立させながら、これまで以上にゴルフに没頭させてあげたい。そんなとき心強い選択肢となってくれるのが通信制高校の存在だ。
そこで、通信制高校であるルネサンス高校2年生に在籍しながら、プロテスト合格を目指す飯島早織さんに、進路の選択とプロを目指す日常を聞いてみた。彼女は6歳のとき「世界ジュニアゴルフ選手権」を制し、その後も実績を積み重ね、アマチュア最強世代の一角を担う超有望株。このインタビュー前週の、「リシャール・ミル ヨネックスレディスゴルフトーナメント2022」ではマンデーをトップで勝ち上がり、本選に出場。残念ながら予選で敗退したものの、初日は1打差の4位でホールアウトしている。すでに彼女に注目しているゴルフ好きも少なくないはずだ。
プロ一択の夢を叶えるためにルネサンス高校を選ぶ
「夢はプロ一択。来年はプロテストを受けます。プロになるためにと選んだのがルネサンス高校です」 制服を着ている姿はどこにでもいそうな女子高生だが、その言葉には強い意志が感じられる。
飯島さんがゴルフをはじめたのは4歳のとき。5人家族で共通の趣味をもとう、というほっこりとした理由ではじめたのがゴルフだった。最初はまだ小さくて、練習場でひとりだけクラブを振れないのが悔しくて、両親に頼み込んで、練習できる場所を探して、遠くまで連れていってもらったという。6歳のとき、練習に通っていたスクールで、将来の夢を書かされたとき、“賞金女王になる”と書いていたという。その勢いなのか、その年の「世界ジュニアゴルフ選手権」で優勝を飾る。小中学校時代は、早朝から兄と一緒に近所のショートコースへ出かけて、そのあと学校へ。授業が終わるとまたショートコースに戻って練習、という日々が続いた。
そんな彼女は中学を卒業して、ルネサンス高校に進学した。
「小中学校の頃から学校にいる時間が好きで、友達と話したり、遊んだりするのが楽しかったです。放課後は練習があるので、昼休みとか、友達と思いきり弾けていたくらいですから。だから全日制高校に行きたいという気持ちも正直ありました。でもゴルフの強い高校が近所にはなくて。そのときもう信頼できるコーチがいたし、きちんと練習できる場所もあった。ゴルフに打ち込むための環境として悪いとは思えませんでした。わざわざ遠くの強豪校の寮に入ってまで、新しい環境を作らなくてもいいと思って、通信制、ルネサンス高校を選びました。あの奈紗さん(畑岡奈紗)が在籍した学校だったことも理由でしたね」
プロを目指すという確固たる目標があり、高校に在籍しながら、今までの練習環境を変えることなく、もっとゴルフに打ち込めるのであれば、毎日通学が必要な全日制よりも通信制のほうが理想的とも言えるだろう。ルネサンス高校では、ネット環境があれば、自分のペースで学習が進められて、スクーリングと呼ばれる登校日も年4日程度。確かに飯島さんにはふさわしい選択だったに違いない。
「両親も進路は好きなように決めていいんじゃない、と言ってくれました。それにまわりのみんなも、看護師になりたいから看護科へ行くとか、将来を考えて進路を決めていたので、自分もプロになるためには、と考えて選びました。そのときには通信制だから、全日制だからといった意識はあまりなかったですね」
毎日一緒に練習することのないゴルフ部の団結力
そして飯島さんが籍を置くゴルフ部も、いわゆる高校の部活とは少し異なる。合宿などはあるものの、部員は自分なりの環境で、それぞれ練習に励む。つまり普段は練習などでみんなが集まることのない部活だ。とはいえ彼女同様に試合を転戦する部員も多い。現場ではよく顔を合わせるし、一緒にラウンドすることもある。コテコテの部活ならではの団結力があるわけではないが、部員同士が孤立しているわけでもない。そんなルネサンス高校ゴルフ部ならではのエピソードを飯島さんが教えてくれた。
「去年の全国高等学校・中学校ゴルフ選手権大会(緑の甲子園)の団体戦に出たとき、みんなで8位以内に入れるように頑張ろうって言っていたのに、結果、準優勝。自分たちがいちばん驚いちゃって。いわゆる部活で頑張っていた高校の選手たちが泣いているのを見て、なんか申しわけないなと…。でも変に縛られることなく、楽しもうっていう自分たちにも団結力があるのかなって、みんなで笑いました。個人で動いているけど、“部” という不思議な集団なんです。でも自分には合っていますね」
ゴルフが中心でまわる彼女のとある一日とは
そんな飯島さんに試合のない時期の一日の過ごし方を聞いてみた。
6:00〜6:30 起床。犬の散歩
7:30〜10:00 お世話になっているゴルフ場でお手伝い
10:00〜16:00 ゴルフ場で練習
16:00〜17:00 帰宅して軽い食事
17:30〜19:00 トレーニングジムかキックボクシングジムでトレーニング
19:30〜20:30 打ちっぱなしで練習
20:30〜22:00 夕食・入浴
22:00〜23:00 勉強・就寝
試合が続く時期は、試合に出場するため、全国の会場への移動に終始する日々が続く。一方で、ゴルフは完全オフという日も作ることを心がけているという。たまったレポートをこなしたり、映画を見たり、ゲームをしたりして過ごすという。
飯島さんの一日の過ごし方で気になったのが、キックボクシング。実は昨年の12月からジム通いをはじめたという。
「ず〜っと地味にダンベルでトレーニングするのとか苦手なんです。それでも飛距離は伸ばしたいし、ちゃんと体も作りたい。そんなとき稲見萌寧さんがキックボクシングをやっているのを見て、楽しそうだなと。キックするときの右腰を上げて鋭くまわす動きが、スイングにも通じるようで、すごくプラスになっている気がします。それなりに上達もしましたよ」
もちろんゴルフに役立つ時間でもあるのだが、ジムで人と会ったり、話をしたりするのも、いつもの日常とは違って楽しいという。
どうやら充実した日常を送っている様子の飯島さんだが、勉強についても水を向けてみた。
「自分でしっかり時間を管理して、勉強の時間もとれればいいのですが、気がついたら忘れてしまって…。おかあさんに “移動時間はレポートね” とか、勉強の時間を作ってもらっています。自分からできればいいのですが、なかなかできません。あと担任の先生が毎月20日のレポート提出に合わせて、連絡をくれたりするのもありがたいです」
ルネサンス高校では生徒ひとり、ひとりに担任がつくのも特徴だ。独自のシステムに基づいて、生徒の学習状況を管理してくれる。もちろん授業でわからない部分を質問できたり、学習以外のことでも相談にのってくれる。やりとりはパーソナルなSNSを使うので、すぐに返信も届くという。飯島さんも試合が続いて、レポートが間に合わなくなりそうなときは、担任に相談しているという。また試合で成績がいいと、“スゴいじゃん” とか連絡がきて、気軽に話せて、頼りになる存在のようだ。
ゴルフに打ち込みながら、さらなるチャレンジができる
このインタビューの後日開催された「2022年関東高等学校ゴルフ選手権夏季大会 女子団体」でルネサンス高校ゴルフ部は4位に入り、全国大会(緑の甲子園)への出場権を得た。そして飯島さんは参加選手中2位という好成績をおさめた。ルネサンス高校ゴルフ部の顧問である高木剛先生はこう話してくれた。
「ゴルフの団体戦は4人で出場しても、団体スポーツと違って戦うときはひとり。バトンのないリレーのようなものです。大会としては団体戦が花形ではありますが、チームのために、学校のためにと思っているのは実は大人だけかもしれません。ですから、いきなり優勝を目指すとか言わずに、個人個人で今日は何打ずつ縮めるとか、ちょっとだけ高めの目標を与えて試合に臨んでいます」
とはいえ、毎日練習で顔を合わせるような部活とは違うルネサンス高校ゴルフ部。顧問の先生の役割にも違いもある。飯島さんと高木先生との会話を聞いていると、厳しい部活の顧問と部員というのではなく、フレンドリーな関係性も見えてくるが…。
「普段は個人で練習している部員たちに技術的な指導とかはしません。部員のほうが自分よりもはるかに上手ですし。その代わり、競技のルールとかをしっかりと教えて、ゴルフをリスペクトする気持ちをもたせるように努めています。もちろん試合へ参加するためのサポートなども行います。フレンドリーに見えるかもしれませんが、毎日顔を合わせない分、部員との距離感には気を配っています。これは部員たちが目上の人に対してどう振る舞うかということにもつながることで、この先の社会生活においても大切です。そういったこともゴルフ部を通して伝えていきたいと思っています」
夢に向かって着々と前進を続ける飯島さん。その背景にはルネサンス高校というステージが大きく役立っている。たとえば小中学校での学校生活が楽しかった彼女には、毎日学校へ通うことのない生活が退屈で、もの足りなく感じることもあると言う。だが彼女はそれも仕方ないなと考えている。なぜならその代わりに、自分の好きなように、やりたいことをするための時間があるからだ。先に紹介した、キックボクシングのジムに通っている話をしてくれたとき、彼女はこう話していた。
「プロを目指すためにこの学校を選びましたが、毎日、一日中ゴルフだけではもったいない。ゴルフをするためだけでなく、いろいろなことにチャレンジしてみたかったというのも、ルネサンス高校を選んだ理由でした。キックボクシングだけでなく、中学時代に続けていた野球、それにダンスや水泳にも挑戦してみたい。それがきっとゴルフにもプラスになると思っています。そのためには中途半端にはやりたくない。そうなると全日制の高校に通っていたら、時間が足りません。でもルネサンス高校であれば、やりたいと思ったことをすぐに行動に移せるんです」
プロとなり、賞金女王となり、世界と戦う。彼女の可能性は無限に広がる。そしてそのプロセスとして、ルネサンス高校で過ごした時間がかけがえのない財産になるはずだ。彼女のこの先の活躍を期待してやまない。
ルネサンス高校について詳しくは
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撮影協力/ロックヒルゴルフクラブ
撮影/山上 忠