<LPGA Qスクール(予選会)セカンドステージ 事前情報◇16日◇プランテーションG&CC(米フロリダ州)◇ボブ・キャットコース=6543ヤード・パー72、パンサー・コース=6363ヤード・パー72>
コースから戻り夕食をとると、練習でくたびれた自分を鼓舞して深夜1時過ぎまで大学の勉強を続ける。このサイクルは、9月に行われたステージ1をクリアして迎えたフロリダの予選会でも変わらない。「学校を休んで来ているので、授業のビデオを見て、ノートを取ったりしないと。来週テストがあるんですよ」。異国でゴルフと学業を両立させる長野未祈(みのり)の生活も、今年で5年目に入った。そして来年の卒業まで、もうしばらく続いていく。
2016年の「日本女子オープン」を盛り上げたのは、2人のアマチュアだった。ひとりは優勝した畑岡奈紗。そしてもうひとりが、3日目を終え単独首位に立っていた長野だ。当時15歳の少女は22歳となり、現在、米国のオレゴン大に通いながらカレッジゴルフで腕を磨いている。「勉強とゴルフを両立するのは大変で、慣れることはないですね」と笑うが、「この環境でできることに感謝しています」という思いは変わらない。
千葉県にある麗澤高の3年生だった18年に、今回と同じプランテーションG&CCで米ツアー入りをかけた予選会を受けている。しかし、その時はスコア誤記で失格になった。いわば“因縁の場所”ではあるが、そんな苦い記憶よりも、別の挑戦に気持ちが傾いた印象のほうが大きい。
「アメリカで試合をしたいという欲が強かったし、失格になって最初は考えていなかったアメリカの大学に進学することを決めました。強い選手と試合ができるし、英語も勉強できる。それが(渡米の)きっかけですね」。コースの形状などはうろ覚えだが、そんな印象は今も強く残る。
入学から2年間は英語もままならずつらい時間も過ごしたという。卒業はせずにプロになる道も頭にはあったが、「いろいろ考えて」学生生活をまっとうすることを決めた。当初入学した2年制の大学から昨年の夏にオレゴン大に編入。この間はQスクールの受験はせず、大学の試合などに集中した。今では日常会話はもちろん、「ひとりずつつけてもらえる」という家庭教師の力も借りながら、自力でレポートを仕上げるまで英語力も上がっている。
そして今年自身2度目となるQスクールを迎えた。ただし大学の規定により、このステージ2をクリアしても11月30日~12月5日にアラバマ州で行われる最終予選会(Qシリーズ)を長野が受けることはできないという。厳密にいうと、出場しても、そこで得られる権利が無効になる。通過した場合は、大学を休学して挑戦する選択肢も親とは話し合っているというが、現時点ではあくまでも「もちろん1位は目指すけど、自分がどこまでできるかを知りたい」というのが意義となる。
しかしツアーへの道が閉ざされているわけではない。下部のエプソン・ツアーの資格をここで得られれば、大学の試合が終わる来年5月から“プロ”としてツアー活動をすることは可能。そこで上位になり、LPGAツアーへの出場権や、来年の最終予選会出場を確定させることも、選択肢のひとつになってくる。まずは結果を出し、そのうえで“最適解”を見つけていく。
2000年生まれの長野は、現在米国で活躍する古江彩佳や西村優菜と同世代。大学進学を選んだ直後は、「みんなプロになって、自分でお金を稼いで、社会人としてやってるのはいいな」という気持ちがあったことも隠さない。ただ、「アメリカの大学に行くこともなかなかできることではないので」という誇りも胸に秘めている。「私はそこで一生懸命やって、周りより遅くなっても、うまくいけばいいんです」。こんな思いも支えに、単位を落とすと試合に出られなくなる厳しい文武両道の世界を生きている。
「何回も逃げようと考えました(笑)」という生活だが、今では大学のマスコットキャラクター『オレゴンダック』があしらわれたウェア姿で予選会を戦うまでになった。今年の7月にはやはり予選会を突破し「全米女子オープン」にも出場している。「家族がすごく一生懸命応援してくれるし、目標があるからけっこうしんどくても頑張れるのかな」。週末にチームメイトとカフェで過ごす時間や、夏と冬に日本へ帰国した時の家族旅行などがたまの息抜きになる。
今回は父の勝(まさる)さんがキャディを務め、親子二人三脚で歩みを進めるが、大学ゴルフはセルフプレーのため、「慣れたもんです」という手押しカートを自ら押していく場面も多くなる。米国に来て一番よかったと思ったことを聞くと、「やっぱり英語。英語圏ならどこでも生活できるし、ゴルフが終わった後の人生も夢が広がるかなと思います」と答えるハツラツとした表情も印象的。来年は日本のプロテストを受験することも視野に入れている。『未来を祈る』という想いが込められた名を持つ長野が、輝かしい未来をその手でつかみとるための第一歩を踏み出していく。(文・間宮輝憲)