<JLPGA 最終プロテスト 2日目◇1日◇JFE瀬戸内海ゴルフ倶楽部(岡山県)◇6419ヤード・パー72>
日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の担当者も「これまでに記憶がないですね」と話す“異色のルーキー”が誕生するかもしれない。22歳の神谷和奏(わかな)が、34位で迎えた2日目に「69」と伸ばし、トータル4アンダー・14位タイと合格圏内まで浮上してきた。このまま合格し“ママさんルーキー”誕生となれば、1988年ツアー制度施行後では初のできごとになる。
まだあどけなさも残る神谷は、今年9月に2歳になったばかりの女の子を育てながらプロを目指している選手。このテスト期間中は会場近くに家を借り、日中はそこで夫の幸宏(ゆきひろ)さんと母が娘の世話をしながら、合格をサポートしている。「昼間は公園や海に行ったりしてるみたいで。帰ったら子供がいるのは、メンタル的にも安定できる要因だと思います」。愛娘の顔を思い浮かべる時はやはり幸せそう。家族の応援も力に、この過酷な4日間を戦っている。
結婚、そして娘の咲凛(えみり)ちゃんを出産したのは19歳の時。そこからはゴルフコーチを務める夫とともに子育てをしながら、ツアープロを目指してきた。それでも「子育てがメインで、ゴルフは二の次。子供一番で生活しています」と、注ぎ込む愛情は他の母親と変わらない。練習量や時間はどうしても出産前に比べると減ってしまったが、「質のいい練習に取り組むようになって、ゴルフをしていない時間にも『もっとこうしたらいいかな』とかを考えるようになった。プラスに働いています」とむしろ効率化が図れている。
そんな日々は、岡山でも生きている。強い風が吹いた2日目だったが、“リンクス風”のコースとあって事前にそれも想定。練習ラウンドを遅めの時間に設定し、なるべく風の影響を受ける環境下で練習を続けてきた。「風向きも練ランの時とほとんど同じ。役にたったなと思います」。むしろタフなコンディションを“追い風”にし、リーダーボードを上がっていった。
「子どものために頑張ろうというよりも、子供、家族がいるから頑張れるという感覚が自分にはある。“家族のためにも”というのも励みになっていますね」。ここで合格を果たせば、来年はツアープロとして転戦を続けることになる。そして、そのためには周囲の支えも必要となる。家族を含め、この生活を支えてくれる人たちには「ひとりではできないこと。いろんな人に感謝しています」と頭を下げる。
昨年のプロテストは2次予選で敗退したが、今年は初めて最終を戦っている。毎朝、会場に向かう前の“ルーティン”は、娘との「ギュー」。そして「頑張ってね」という応援に後押しされている。「(離れる時は)胸も痛いけど、いろいろひとりでも楽しいことを見つけているのかなと思えて、それもうれしいです」。最後にいい報告ができるよう、若きママは日々のプレーに集中している。
2日目を終えて合格ラインは3アンダー。伸ばしあいの様相を呈しており、「一打落とすだけでもすぐに順位が変わる。あまりカットラインは見ないでプレーしたい」と決して気を抜ける状況ではない。まずはこの3日目をいい形で終え、少しでも貯金を持って最終日に向かいたい。咲凛ちゃんの名前には、「咲いた場所で強くたくましく生きてほしい」、「“えみ”は、たくさん笑ってほしいから」などの願いが込められている。最後に合格を手にし、最高の笑顔で待ってくれている家族のもとに帰りたい。(文・間宮輝憲)