米国女子下部エプソン・ツアーの2025年シーズンが開幕した。フロリダ3連戦には原英莉花、長野未祈、谷田侑里香、深谷琴乃、伊藤二花の5人が出場中。ポイントランキングトップ15に与えられる米ツアー切符をかけて争う“過酷なレース”だ。記者は開幕戦を実際に取材し、そこでちょっとした“カルチャーショック”を受けることになる。
コースの様子については、原が表現した「寂しい、静か」という言葉が的を射ている。装飾は必要最低限。大会の中継がないため、テレビ塔などの機材も設置されず、ギャラリーロープやスタンドもない。飲食ブースなどもってのほか。今回の会場は平坦で見渡しが良いこともあり、より閑散とした印象を受けた。
とはいえ、コース内にギャラリーがまったくいないわけではない。観戦しているのは選手の関係者や家族がほとんどだが、近隣のゴルフファンがちらほらと訪れることもある。駐車場は選手らと同じクラブハウス前で、タダで観戦可能(有料の大会もある)。ローピングがないため、“選手の邪魔にならない場所”を探して好きに見ることができるのも、コアなファンにとってはうれしい環境なのかもしれない。
たとえば、フェアウェイのど真ん中を歩いても問題はなく、プレーの進行を妨げない限りは特に大きな制限はない。あらゆる角度からスイングを見たり、後方からアイアンショットの弾道を眺めるなんてこともできてしまうのだ。個人的にはモラルが気になるところではあるが…。
ただ、一人の選手に18ホールをついて歩き、声援を送り続けるようなファンはほぼいない。決勝ラウンドの最終日には上位の組にだけキャリングボードが用意されたり、最終18番にはスポンサー用のVIPテントが張られ、週末には20人ほどが椅子に座りながらプレーを見守っていた。局部でトーナメントの雰囲気が醸し出されていたが、ギャラリーの声援や拍手がコース上に響き渡らないのが、やはり寂しく感じられる。
レギュラーツアーと大きく異なると感じたのは、キャディの動きだ。レギュラーツアーでは、プレーヤーがトラブルに見舞われた際に、別のキャディがバンカーを均したり、ボールを拭いたりする場面がよく見られる。しかし、このツアーではその姿はほとんど見られない。というのも、エプソン・ツアーではキャディ帯同が義務付けられておらず、選手の判断に委ねられているからだ。経費を抑えるためにセルフでクラブを担いだり、手押しカートを使う選手も多く、プレーは基本的に自己責任となる。
それでもプレーのペースは速く、3サムの予選で4時間30分、決勝ラウンドの2サムでは3時間30分ほどだった。昨今、スロープレーが問題視される中で、このテンポの良さは印象的だった。
コースは、フロリダ特有のねちっこい芝が特徴的だった。整備については、ここはかなり手入れされているように感じた。グリーンもしっかりと硬く仕上がっていたし、コンパクトにまとめられた練習エリアも、打撃、アプローチ、グリーンと一通りそろってはいる。
ただし、打撃練習場は20打席ほどと決して広くはない。ボールはキャロウェイの1種類のみで、大きなカゴに入って無造作に置かれている。好みのメーカーを選べないのは選手にとって気になるところではあるが、キャロウェイがツアーを全面的にサポートしていることを考えると、納得できる部分でもある。
クラブハウスもコンパクト。大会期間中のみ食事が提供されるが、練習日にはそのサービスはない。今回はサンドイッチのみという質素な内容で、「バナナすらない…」と嘆く選手もいた。大会によってはパスタや肉類、サラダが用意されることもあるようだ。
原はこの環境に戸惑いは少なかったというが、「毎試合がQTみたいな感覚です」と表現した。これは昇格をかけたトーナメントの厳しさ、そして静まり返ったコースの雰囲気を表してのことだろう。この環境を乗り越えた先に、世界最高峰の舞台は待っているのだ。(文・笠井あかり)