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今は少ない“ワクワク感”に焦がれた セベ・バレステロスのフェードショット【編集者たち思い出のマスターズ】

今は少ない“ワクワク感”に焦がれた セベ・バレステロスのフェードショット【編集者たち思い出のマスターズ】

配信日時:2021年4月5日 06時20分

ところが、最終18番は右ドッグレッグ。最後にドローとは逆の球筋、完璧なフェードボールが要求される。優勝したバレステロスは天才的なゴルファーであり、そのボールコントロールの技術で数々の伝説を作ってきた選手だが、天性のフッカーでもある。つまり黙って振ればきれいなドローボールになるのだ。

最後の最後、どうしてもフェードが必要となったとき、前述の“舞うようなスイング”を披露しフェアウェイをキープした。そのスイングは、絶対にフェースが被らないようにインパクトから左ヒジを抜きながらスルーさせ、大きく上方へ振り上げていく。その反動でフィニッシュでは頭の上でクラブが半回転しヘッドは背中側には収まらず、目標方向を向いてしまう。なんとダイナミック!

いまこのようなスイングをする選手はいない。道具が変わったことでその必要がなくなった(できなくなった)。最新のギアはシンプルで余計な操作をしないスイングを要求する。あの当時、糸巻きバラタボールにパーシモンという、球を曲げやすい道具だったからこそ存在できた技術であった。記憶は曖昧だが、バレステロスはセカンドショットをグリーン奥のカラーに運び、最後はそこからチップインして優勝を決めた。

この50年でゴルフクラブとボールの性能は飛躍的な進歩を遂げた。その結果驚くほど飛距離が伸びた。しかしスイングや技術は進歩したのだろうか?もちろん扱う道具が変われば必要な技術も変化していくのはわかる。よく例えられる話で、そろばんから電卓にそしてコンピューターへと変われば必要なスキルも変わると…。しかし本当にそうなのだろうか?いやそれでいいのだろうか?

あるときショットメーカーとして知られる湯原信光プロ、倉本昌弘プロにそれぞれ取材した際、いまアイアンが上手いプロは誰か?と問うたことがあった。2人のプロは「今そういう人はいない」と答えた。なぜかと聞けば「アイアンショットの上手さとは、ボールをコントロールする技術のこと。いまのクラブはそういう技術を必要としないから」と言った。そしてこう続けた「強いて言えば、上手そうに見えない人かな?」と言った。上手そうに見えない人とは、ボールを操っている感じのしない人と自分なりに解釈した。

ダスティン・ジョンソンジョン・ラームブライソン・デシャンボーも、みんな凄いけどなぜかワクワクはしない。消えてしまった、必要とされなくなった技術を今一度見てみたい。そんな技術を駆使していたバレステロスは絶対にカッコよかった。今後、もうバレステロスのような、人々をワクワクさせてくれるプロゴルファーは出てこないのだろうか。(文・土屋裕一)

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