<マスターズ 最終日◇13日◇オーガスタ・ナショナルGC(米ジョージア州)◇7555ヤード・パー72>
歴史的快挙が生まれた。ローリー・マキロイ(北アイルランド)が「マスターズ」初制覇を果たした。これで海外メジャー4大会すべてを制し、史上6人目となるキャリアグランドスラムを達成した。
マキロイとマスターズを語るうえで欠かせないのが、14年前のこと。2011年、当時21歳だったマキロイは後続と4打差の単独首位で最終日を迎えたが、サンデーバックナインで「80」を叩き、自滅。グリーンジャケットに手が届かなかった。
それでも「全米オープン」(11年)、「全米プロ」(12年、14年)、「全英オープン」(14年)を制し、若くして快挙に王手をかけた。だが、そこからマスターズはおろかメジャー制覇からも遠のき、すでに11年が経っていた。
2打リードで迎えた最終日。ロッカーを開けると“あるメモ”が入っていた。2009年大会覇者、アンヘル・カブレラ(アルゼンチン)からだった。「幸運を祈ってくれていたんだ。11年の最終日に一緒にプレーした選手だから、うれしいような、少し皮肉なような気もした(笑)。でも、成し遂げられたよ」。長い月日をかみしめながら、ようやくその挑戦にピリオドを打った。
ジャスティン・ローズ(イングランド)とのプレーオフ1ホール目。80センチのウィニングパットを沈めると、オーガスタに大歓声がこだました。パトロン(ギャラリー)のスタンディングオベーションの中、マキロイは膝から崩れ落ち、涙を流しながら何度も雄たけびを上げた。
「14年とは言わないまでも、あのグリーンで僕の中から出てきたものは、少なくとも11年分のうっぷんだった。すべて“安ど”だよ。喜びじゃない(笑)。でも、そのあとすぐに喜びが湧いてきた」
この11年間で、私生活にも大きな変化があった。17年4月にエリカ夫人と結婚し、20年8月には第一子のポピーちゃんが誕生。これまでメジャーで活躍する姿を娘に見せることはできなかったが、最高の舞台でその勇姿を届けた。
「結婚や子どもの誕生と比べるつもりはないけれど、きょうはゴルフ人生で最高の日だった」。表彰式では涙ぐみながらアイルランドにいる両親、支えてくれたチーム、そしてそばで見守る妻と娘に感謝の言葉を伝えた。
そして、最後に娘・ポピーちゃんへのメッセージを贈った。
「あそこに座っているポピー。ひとつだけ言わせてくれ。夢を決して諦めないで。絶対に、何があっても。何度でも立ち上がって、努力を続けるんだ。愛しているよ」
まだ幼いポピーちゃんが、父の快挙をどれくらい理解していたかは分からない。だが、グリーンジャケットを羽織った父親を見つめる姿は、どこか誇らしげだった。(文・笠井あかり)