米フロリダ州オーランドの名門ベイヒル・ロッジ&クラブが舞台となった「アーノルド・パーマー招待」は、賞金総額2000万ドル(約27億1600万円)を競い合うPGAツアーの“格上げ大会”のひとつとして開催され、その優勝争いは破格の賞金にも格上げ大会の呼び名にもふさわしい見ごたえたっぷりの展開だった。
「肩書きのない選手」の見事な勝利がもたらす勇気と希望【舩越園子コラム】
賞金総額2000万ドルの“格上げ大会”。このビッグトーナメントを制したのは、ツアー未勝利の30歳、カート・キタヤマだった。
配信日時:2023年3月6日 03時00分
Round 4 | ||
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順位 | Sc | PLAYER |
1 | -9 | カート・キタヤマ |
2 | -8 | ハリス・イングリッシュ |
2 | -8 | ローリー・マキロイ |
4 | -7 | パトリック・キャントレー |
4 | -7 | ジョーダン・スピース |
4 | -7 | タイレル・ハットン |
4 | -7 | スコッティ・シェフラー |
8 | -6 | デービス・ライリー |
8 | -6 | トレイ・マリナクス |
10 | -5 | キーガン・ブラッドリー |
米フロリダ州オーランドの名門ベイヒル・ロッジ&クラブが舞台となった「アーノルド・パーマー招待」は、賞金総額2000万ドル(約27億1600万円)を競い合うPGAツアーの“格上げ大会”のひとつとして開催され、その優勝争いは破格の賞金にも格上げ大会の呼び名にもふさわしい見ごたえたっぷりの展開だった。
最終日を単独首位で迎えたのは30歳の日系米国人、カート・キタヤマ。しかし、1打差の2位タイにはディフェンディング・チャンピオンのスコッティ・シェフラー(米国)、2打差には2000年大会の覇者タイレル・ハットン(イングランド)、3打差には2018年大会覇者でメジャー・チャンピオンのローリー・マキロイ(北アイルランド)、そして4打差には、やはりメジャー・チャンピオンのジョーダン・スピース、ジャスティン・トーマス(ともに米国)らが控えていた。
PGAツアーでは昨季にデビューしたばかり。ツアー未勝利で今大会初出場のキタヤマには、そうした華々しい肩書きは一つも見当たらず、そんな彼が多大なるプレッシャーに襲われるはずの最終日に脆く崩れ去るシナリオを予想していたゴルフファンは少なくなかったはずである。
しかし、キタヤマは3番でも7番でも長いバーディパットを魔法のように沈め、大健闘していた。9番ではティショットをOBとしてトリプルボギーを喫し、首位から後退。だが、動揺することなく、執拗(しつよう)にパーを拾い続けたキタヤマは、やがて首位の座を奪還し、トッププレーヤー7人を従える形になった。
終盤、熟練のハリス・イングリッシュ(米国)がキタヤマを捉え、マキロイ、ハットン、シェフラーもトータル8アンダーでキタヤマに並んだ。そこから1つ抜け出すためのパットを誰もが外していった中、キタヤマは17番(パー3)で4メートルをねじ込み、単独首位へ。
そして1打リードで18番(パ―4)を迎えた。15メートルのバーディパットはカップに入りかけて止まってしまったが、勝利を確信したキタヤマは破顔一笑。先にホールアウトし、プレーオフの可能性に期待してモニターを眺めていたマキロイも、カップぎりぎりで止まったキタヤマのボールに思わず見入り、微笑んでいた。
1センチにも満たないウイニングパットを沈め、PGAツアー初勝利を達成したキタヤマに、ベイヒルの大観衆は惜しみない拍手を送った。
キタヤマはカリフォルニアで生まれ育ち、ネバダ大学ラスベガス校を経て、2015年にプロ転向。PGAツアー・カナダや下部ツアーのコーンフェリーツアーで腕を磨いた。欧州のDPワールドツアーでは2018年と2019年にそれぞれ1勝を挙げたが、まだ2シーズン目を迎えたばかりのPGAツアーで、しかも格上げ大会の大舞台で並みいるトッププレーヤーたちを初出場にして抑え込んだ戦いぶりは、実に見事だった。
3日目はパー5の4番でOBを打ち、ダブルボギー。最終日はパー4の9番でOBを打ち、トリプルボギー。それでも諦めず、盛り返し、勝利をつかんだキタヤマのサバイバルなゴルフに脱帽したマキロイは、彼に「おめでとう」を言うために、わざわざスコアリング・エリアまで足を運んだ。キタヤマとマキロイは今季の「CJカップ」でも勝利を競い合い、あのときはマキロイが優勝し、キタヤマは2位に甘んじた。
キタヤマの惜敗は昨季にも2度あった。「メキシコ・オープン」ではジョン・ラーム(スペイン)に破れ、「ジェネシス・スコットランド・オープン」ではザンダー・シャウフェレ(米国)に勝利を奪われた。
どの惜敗のときも、キタヤマは優しい笑顔で勝者を心から賞賛していたが、今回は、とうとう勝者に輝いたキタヤマを、惜敗したマキロイが温かいハグで称えた。
キタヤマは9番のトリプルボギーの後も「キャディと『まだ戻せる』と言い合いながらプレーした。18番はグリーンを捉えることしか考えていなかった」。
ネバーギブアップの精神とゴルフの基本を重んじる謙虚な姿勢で戦い抜き、破格の優勝賞金360万ドル(約4億8900万円)を手に入れたキタヤマの勝利は、これまでのキタヤマ同様、まだ何一つ肩書きを手に入れていない大勢の選手たちに大きな勇気と希望をもたらしたに違いない。
2016年にこの世を去ったパーマーは、生きていれば今年で93歳だった。ベイヒルの18番グリーンでキタヤマを出迎え、彼の肩を抱きながら勝利を称えることは、もはや叶わなかったが、きっとパーマーは天国から「カート、おめでとう。よく頑張ったね」と祝福の言葉を贈っていたはずである。
文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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Round 4 | ||
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順位 | Sc | PLAYER |
1 | -9 | カート・キタヤマ |
2 | -8 | ハリス・イングリッシュ |
2 | -8 | ローリー・マキロイ |
4 | -7 | パトリック・キャントレー |
4 | -7 | ジョーダン・スピース |
4 | -7 | タイレル・ハットン |
4 | -7 | スコッティ・シェフラー |
8 | -6 | デービス・ライリー |
8 | -6 | トレイ・マリナクス |
10 | -5 | キーガン・ブラッドリー |
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