<ハッサン2世トロフィー 事前◇4日◇ロイヤルゴルフダルエスサラム (モロッコ)◇7329ヤード・パー73>
2012年の国内男子ツアー賞金王・藤田寛之が、55歳にして新たなスタートを切ろうとしている。
昨年、「全米シニアオープン」で2位に入ったのをきっかけに、米シニア「PGAツアー・チャンピオンズ」のプレーオフシリーズに進出。2戦目で3位に入ったことで大きくポイントを上積みし、今季のフルシード権を得た。1月の米シニア開幕戦「三菱エレクトリックチャンピオンシップ at フアラライ」は直近2年間のツアー優勝者や、メジャーチャンピオンしか出場できないため、今週モロッコで開催される「ハッサン2世トロフィー」が藤田にとって今季初戦となる。
例年なら3月下旬から4月上旬の国内ツアーが初戦となるため、このオフはいつもより2カ月ほど短い。しかも米国での生活準備もあって、思うように練習はできていないようだ。1月中旬には10日ほどハワイで合宿を行い、下旬は拠点となる米テキサス州で銀行口座を開設したり、生活必需品を買いそろえたりと忙しかった。その様子は自身のYouTubeで公開している。
「米シニアツアーのスケジュールは3週やって1週休みなんですよ。試合が続くときは月曜日に次の会場に移動して、1週のオープンウィークのときだけ(拠点の)テキサスに帰ってきます。基本的に日本に帰ってくる予定はないですね」
4月の日本シニアツアー「ノジマチャンピオンカップ箱根 シニアプロゴルフトーナメント」は、藤田がスポンサー契約を結ぶ株式会社ノジマが主催で、米シニアツアーはちょうど2週間のオープンウィークとなるため出場の予定。それ以降は家族ともしばらく会えない生活が続く。藤田の2人の息子は、長男が現在大学3年生で、次男は今年の高校進学とともにカナダに留学予定。「バラバラです。もともとオヤジは家にいないから」と笑う。
昨年は米シニアに6試合出場し2位1回に3位1回。66万1710ドル(約1億円)を稼いだ。1月の開幕戦と今季のポイントによって出場権が決まるプレーオフシリーズ3試合を除く、全24試合に出場する予定の今年は、優勝を期待したくなる。これまでに米シニアツアーでは青木功が9勝、井戸木鴻樹が1勝を挙げている。
「2位、3位というのがあるから、残すは優勝だけという理屈があるのも分かります。だからといって簡単に優勝できるわけではない」。今年の開幕戦で優勝したのはメジャー4勝のアーニー・エルス(南アフリカ)。米シニアツアー歴代1位の通算47勝を誇るベルンハルト・ランガー(ドイツ)が2位タイで続いた。藤田も昨年6試合を戦って、レベルの高さを肌で感じている。
そのうえで「(米国で生活しながらのフル参戦は)初めてなので不安もあります。行きたくてもなかなか行ける場所ではないから、年齢的な部分も考えてまずはそういう時間を楽しみたい。サポートしてくれる人や応援してくれる人がいるので、(優勝の)チャンスがあれば頑張るし、良いニュースを届けたいという気持ちはあります」と語る。
次に藤田を含む日本人選手が今後、米シニアツアーに優勝する可能性についても聞いてみた。「本当に最高のプレーができたときには可能性はあると思います。アメリカツアーで戦ってきた選手の方が断然レベルは上ですけど、自分でも『何でこんなに上手くいくんだろう?』というプレーができたときには面白い。それがゴルフでもある」。
実際、昨年の全米シニアオープンで藤田は、最終日の10番を終えて3打リードしていた。濃霧の影響でサスペンデッドになったのが不運の1つで、5日目となった翌日は18番の長いパー4がフォローからアゲインストに変わったことで、勝負の風向きも変わり、プレーオフの末に優勝を逃している。本当にシニア世界一のタイトルは目前だった。
また、2024年は松山英樹が先に「全米オープン」で6位に入り、笹生優花が「全米女子オープン」で優勝、渋野日向子が2位。全米シニアオープンの練習ラウンドでは、藤田と宮本勝昌が「シニアもね」と笑いながら話していたという。男子、女子、シニアの日本選手たちがメジャーで躍動した年でもあった。
「自分が若いときにメジャーに出ていた頃は、マスターズなんて出るだけですごかった。それが今や日本人が優勝しているわけですよ(21年のマスターズで松山が優勝)。ゴルフをやる若い人は最初の意識のステージが違うわけです。それを成長というのかは分かりませんけどね」
13 年の「全米プロシニア」に優勝し、14年まで米シニアツアーを転戦した井戸木以来となるフル参戦。藤田だけでなく、今年は米男子ツアーでは5人、米女子ツアーでは13人もの日本人選手たちが戦う。昨年以上に海外から良いニュースが届くに違いない。