今年行われた87回目の“春の祭典”はジョン・ラームの優勝で幕を閉じた。マスターズ7回目の挑戦で、初めてグリーンジャケットの袖に手を通した。
ジョン・ラームは7回目の挑戦 なぜ、マスターズは初出場の選手が勝てないのか
初出場で優勝したのは、実質的には1979年のファジー・ゼラー(米国)1人だけしかいない。なぜ、マスターズは初出場の選手が勝てないのか。
配信日時:2023年4月10日 22時02分
今年行われた87回目の“春の祭典”はジョン・ラームの優勝で幕を閉じた。マスターズ7回目の挑戦で、初めてグリーンジャケットの袖に手を通した。
優勝者の過去のデータを見ていくと、初出場で優勝したのは、1934年のホートン・スミス(米国)、1935年のジーン・サラゼン(米国)、1979年のファジー・ゼラー(米国)の3人だけしかいない。マスターズ自体が1934年に始まったことを考えると、本当の意味で初出場で勝ったのはゼラー1人といってもいいかもしれない。
初優勝を達成したときの出場回数に目を向けると、2015年のジョーダン・スピース(米国)は2回目、1997年のタイガー・ウッズと昨年のスコッティ・シェフラー(ともに米国)は3回目、2021年の松山英樹は10回目。もっとも時間がかかったのは2017年のセルヒオ・ガルシア(スペイン)で、19回目にしてようやく勝った。なぜ、マスターズは初出場の選手が勝てないのか。
今回、初出場の選手は日本の比嘉一貴を入れて15人。多くのアマチュアが含まれてはいるが、そのうち比嘉を含め10人が予選落ち。決勝ラウンドに進出した5人のなかで最高成績はサヒス・ティーガラ(米国)の9位だった。
比嘉は予選落ちが決まった第2ラウンド終了後に「準備不足だった」と話している。小さい頃から毎年のようにテレビで見ているマスターズだったが、実際に来てみると、比嘉の想像よりもコースにはアップダウンがあり、グリーンは小さいのに傾斜が大きく、雨が降れば距離はより長く感じた。
ピンに向かっていいショットを打っても、傾斜によってボールはグリーンを出てしまう。12番パー3は155ヤードと距離は短くても上空を巻く風の読みが難しく、番手を間違えば簡単に池に落ちる。そんな場面は何度も映像で流れているし、それがわかっていても、比嘉は初日の12番でレッドペナルティエリアに落としてトリプルボギーを叩いた。結局、トータル6オーバーでカットラインに3打足りずに予選落ちしている。
比嘉は日曜日の夜にオーガスタに入り、月曜日にアウト9ホール、火曜日に18ホール、水曜日にイン9ホールと合計2ラウンド回り、グリーンとグリーン周りを中心にコースチェックを行った。火曜日と水曜日は9ホールずつ21年覇者の松山とともに回り、外してはいけないポイントをアドバイスもされている。もし、松山のような歴代優勝者で丁寧に教えてくれる人間が近くにいなかったら、もっとスコアを落としていた可能性だってある。
“経験の差”と片付けてしまうと簡単だが、それが顕著に出たのは2日目が順延となり、最高気温9度のなかで再開された第2ラウンドの17番パー4だった。寒さにより比嘉のドライバーは239ヤードしか飛ばず、198ヤードが残った。セカンドショットは比嘉が想像していたよりも20ヤードショートして左手前のバンカーへ。左足下がりから下り傾斜に打っていく絶対に寄らないところだった。比嘉は必死に最善のバンカーショットを打ったが、無情にもボールはグリーンの奥のエッジまで転がり、返しを決めることができず、ここで予選通過がかなり厳しくなった。
それに対して、マスターズ出場12回目の松山は、比嘉よりもおよそ1時間30分あとに17番にやってきた。松山をもってしても、寒さとより強くなった冷たい雨でティショットは253ヤードしか飛ばない。そして残り185ヤードのセカンドショットは、おそらく、あえてグリーンの奥に打った。それを難なく30センチに寄せてパーで切り抜けたのだ。
第2ラウンドの左奥のピンは、奥からのほうが寄せやすいのは、もちろん比嘉もわかっていた。そのうえで天候の変化に対応して実行できるかどうか、もしかすると0.5打くらいかもしれない積み重ねがスコアの差となって表れた。
試合展開としては、第3ラウンドまでトーナメントをリードしていたブルックス・ケプカ(米国)はスタート時間に恵まれていた。初日、2日目は降雨による中断を経験することなく、すいすいと回ってトータル12アンダー。3日目は第2ラウンドの残りを回る必要がなかったため、午前中はゆっくりできたはず。それでも、3日目と最終日の朝から途中のラウンドを再開したラームが勝った。
マスターズは過去87回の開催で48大会が雨に見舞われている。マスターズなら雨が降るのは仕方ない。そう思えるかどうかも経験の差。38回目の出場をはたしたフレッド・カプルス(米国)が、2日目に2度の中断がありながらも、63歳で最年長予選通過記録を塗り替えたことも、それを裏付けている。
昨年の世界ランキングポイントの見直しによって、日本ツアーでいい成績を修めても、出場資格の世界ランキング50位以内に入るのは難しくなった。松山以降は毎年のようにマスターズに出られる日本人選手はいないのが現状だ。比嘉は松山と同じ時間を過ごし、“アメリカに来てほしい”という思いを強く感じ取った。松山自身は頼ってくる比嘉、金谷拓実、中島啓太、桂川有人、岩崎亜久竜といった海外志向の若手にはやさしく手をさしのべ、協力を惜しむつもりはない。若手の奮起にも期待したいと思ったマスターズウィークだった。(文・下村耕平)
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