世界4大メジャーのなかで唯一毎年同じコースで行われる「マスターズ」。その舞台となるオーガスタ・ナショナルGCは、マスターズを開催するために作られた超プライベートコース。初めてマスターズを取材する記者が、実際に見たオーガスタの不思議を紹介する。
マスターズのギャラリーは“パトロン”と呼ばれています。彼らはまず遊園地に似た入場ゲートを通らなければなりません。空港の保安検査と同じで持ち込めるものが大きく制限されていて、飲食物やナイフなどの金属物はもちろん、携帯電話の持ち込みもできません。開封していないペットボトルまでここでゴミ箱行き。携帯電話に関しては車に置いてくるか、ゲート前に預ける施設があり、帰りに受け取るシステムになっています。
そこで気になったのは、ゲート前に置かれた緑色の小さな箱。実際にメジャーで測ってみると縦28センチ、横32.5センチ、高さ25.5センチあった。容量は20リットルくらいといったところでしょうか。その箱の正体は、大きな荷物を持ち込ませないためのもの。ここに収まらないバッグや荷物は入場ゲートを通過できない。パトロンたちもそれがわかっているので、大きな荷物持っている人はほぼゼロ。この箱自体があまり活用されていませんでした。
試しに私が持っていたウエストバッグはすっぽり入りました。係員は「問題ない」とニッコリ。携帯電話を預け、ペットボトルを捨て、金属探知機をくぐり抜け、入場バッジをピッとセンサーにタッチすると、ようやくオーガスタに入場できるのです。
その代わりにパトロンたちは、ここのゴルフショップでしか買えないお土産をどっさり持ってオーガスタをあとにします。緑色の箱にはとうてい入らない大きなお土産を抱えた人もチラホラ。お土産紹介はまた別の機会に。
ちなみに私たちメディアも毎日、麻薬犬にクンクンされながら金属探知機をくぐり抜けて、バッジをピッとかざして、プレスビルディングに入っています(仮設ではなく立派なプレスルームがあるのもオーガスタ以外は知らないが)。パソコンやカメラといった荷物があるので、さすがに緑色の箱はありませんし、携帯電話も預ける必要はなし。しかし、メディアビルディングからコースに出るドアの前には『NO CELL PHONES BEYOND THIS POINT』という立て札があり、メディアもコースへの携帯電話の持ち込みはできません。使えるのはプレスビルディングの中だけ。これを破れば、大会から即退場となるのです。
だから、コース内の9カ所に、いまとなっては懐かしい公衆電話が設置してあります。コインやテレホンカードを入れるところはなく通話は無料。古くからマスターズを取材している新聞記者に聞くと、昔はこの公衆電話から試合の状況を日本に伝えていたんだとか。
いまでもコース内で試合の状況を把握するには、手動で更新されるアナログなリーダーボードを見るしかありません。周りに携帯電話を持っている人が誰もいない景色は、昔に戻ったような不思議な感覚に陥ります。究極のデジタルデトックスが体験できるのが、マスターズなのです。(文・下村耕平)