米国男子ツアー第2戦「ソニー・オープン・イン・ハワイ」の最終日は、“大どんでん返し”の展開で、カナダ出身の36歳、ニック・テイラーとコロンビア出身の30歳、ニコラス・エチャバリアがプレーオフに突入。2ホール目の18番でバーディパットを捻じ込んだテイラーが通算5勝目を挙げた。
最終日を単独首位で迎えたのは、米国出身のJ.J.スポーンだったが、後半で勢いが止まったスポーンを、ともに回っていたドイツ出身のスティーブン・イェーガーが捉え、2人は首位タイで終盤へと進んでいった。
しかし、上がり3ホールはどちらもプレーが不安定になり、イェーガーは16番でボギー、スポーンは17番でボギーを喫し、通算15アンダーへ後退。その直後、1つ前の組で回っていたテイラーが72ホール目でイーグル、エチャバリアがバーディを奪い、どちらも通算16アンダーで首位タイへ浮上した。
最終組のスポーンとイェーガーは最終ホールでバーディを獲らない限り、勝利は無いという状況に陥ったが、どちらもパー止まり。優勝争いはテイラーとエチャバリアのプレーオフにもつれ込み、2ホール目でテイラーが勝利を掴み取った。
優勝争いが最後の最後にこの2人によるプレーオフとなったこと、そして最終的にテイラーが勝利したことは、文字通りの大逆転優勝ではあるのだが、「まさかの大逆転」では決してない。
テイラーは最終日の後半に入ってからも、15番でも16番でも短いパットを外してしまい、その様子だけを見ると、彼に勝機は無いかのように感じられたかもしれない。しかし、勝利の女神から見離されたかのような状況にあっても、それでも諦めず、小さな可能性と自分自身の力を信じて戦い続けたからこそ、テイラーにチャンスが巡ってきた。
その好機を逃さずモノにしたからこそのテイラーの勝利は、「まさかの大逆転」ではなく、彼自身が自力で掴み取った大逆転勝利なのだと、私は表したい。「ショートパットをいくつか外したし、ミスもあった。風もトリッキーだった。そのなかで我慢を重ねて優勝できたことは、とてもうれしく、とても楽しい戦いだった」。テイラーはずっと支え続けてくれている家族に何より感謝していた。熾烈なPGAツアーにおいては、感謝の念が深い選手ほど、辛抱強く、たくましく戦えているように思えてならない。
たとえば、2日目に首位タイへ浮上し、最終的には6位タイに食い込んだ米国出身の32歳のパトリック・フィッシュバーンは、PGAツアーで2年目のシーズンを迎えており、このソニー・オープンの会場であるワイアラエCCにやってきたのは今年が2度目。しかし、出場したのは、今年が初めてだったそうだ。
「昨年はルーキーのオリエンテーションに出るためにワイアラエに来たけど、僕の出場枠は無く、そのまま自宅へ帰ることになった。今年は去年とはまったく異なるシナリオで、自分のスタート時間をもらえたことに何より感謝した」
PGAツアーの多くの選手は、むなしさや悔しさ、やるせなさを味わいながら、強くたくましくなっていく。そういうプロセスを踏むことで、小さなチャンスと可能性を最後まで信じ、諦めずに戦い続けるサバイバルなスピリッツを身に付けていく。
日本人ルーキーの星野陸也や大西魁斗、金谷拓実、さらにはスポンサー推薦で平田憲聖らが出場できたことは、もちろん彼らの日ごろの頑張りもあることは言うまでもないが、いろんな意味で、とても恵まれた状況であることを、選手たちもファンも、忘れてはならないと私は思う。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)