カリフォルニアの大規模な山火事の影響を受け、戦いの舞台がロサンゼルス近郊のリビエラからサンディエゴ近郊のトーリーパインズへ変更された今年の「ジェネシス招待」。
最終日を単独首位で迎えたパトリック・ロジャースの悲願の初優勝なるかと思われたが、かつて大型新人ともてはやされた32歳は、今回もチャンスを活かすことはできず、3位タイに終わった。
最終日にスコアを8つ伸ばして猛チャージしたマーベリック・マクニ―リーの大逆転勝利で終わるのかとも思われたが、それも実現せず。終わってみれば、スウェーデン出身の25歳、ルードビック・オーバーグの見事な逆転勝利という結果になった。
首位から2打差の3位から最終日をスタートしたオーバーグは、着実にフェアウエイを捉え、正確なショットでグリーンを捉え、2バーディを先行。しかし、ティショットを大きく曲げたり、パーセーブを逃したりで、4番5番は連続ボギーを喫したが、すぐさま気持ちを切り替え、7番と9番でバーディ奪還。後半は4つのバーディーを次々に奪い、6アンダー、『66』の快進撃で通算2勝目を挙げた。
ほんの1か月前。同じトーリーパインズで戦った「ファーマーズ・インシュアランス・オープン」では、初日に首位に浮上したが、その後は原因不明の体調不良に見舞われ、終わってみれば42位タイに甘んじた。
翌週の「AT&Tペブルビーチ・プロアマ」では、体調がさらに悪化し、2日目に棄権。体重は8ポンド(約3.6キログラム)も減ってしまったが、そんな予想外の出来事を一気に覆し、今週は見事、勝利を挙げた。
幼少期のオーバーグはサッカー少年だった。ゴルフを始めたのは13歳。地元のハイスクールに進み、ゴルフ部で活躍していたら、スウェーデンのナショナルチームに迎えられ、ナショナルハイスクールへ転校。ゴルフのエリート教育を受け、大学は米国のテキサス工科大学へ留学した。
その後、短期間で飛躍的に力を伸ばし、2023年にプロ転向。早々にDPワールド(欧州)ツアーの「オメガ・ヨーロピアン・マスターズ」で初優勝。初出場した「ライダーカップ」でも大活躍後、PGAツアーの「RSMクラシック」で初優勝。世界ランキングは4位まで上昇した。
ゴルフ歴がトータルで12年しかない中で、すでに世界のトップに数えられていることに、あらためて驚かされる。
そんなオーバーグの輝かしい歩みとは対照的に、またしても勝ちそこなったロジャースは、いつになったら勝てるだろうかと心配になる。
10年ほど前。タイガー・ウッズの母校スタンフォード大学のゴルフ部に所属し、ウッズの記録を次々に塗り替えていったロジャースは、14年にプロ転向。「ネクスト・タイガー」「大型新人」と呼ばれ、当時は大きな注目を集めていたが、勝ちかけては負けることの繰り返しで今大会でも惜敗に終わった。
その差は、何なのか。答えは決して1つではなく、さまざまな要素が絡み合っているに違いない。最大の問題は、おそらくはメンタル面だが、最初のハードルを乗り越えれば、そこから先は次々にハードルを越えていけるのではないだろうか。
越えても越えても、新たなハードルに直面することは、誰しも同じで、スピーディーにPGAツアーで2勝目を挙げたオーバーグも「メジャーで勝つ」という次なるハードルと、すでに向き合っている。
女子ゴルフ界のレジェンドで英国出身のローラ・デービスは、英国のTV中継に登場し、「オーバーグはメジャーで勝利を狙える新たなレベルへ昇格した」と絶賛。オーバーグはスウェーデンのヒーローであるばかりでなく、欧州ゴルフの期待の星でもある。
今年はオーバーグのメジャー優勝なるか。新たな楽しみができた。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)