ALBA Net  ゴルフ
ALBA Net  ゴルフ

注目!
ツアー情報

見方を変えれば、意外と明るいゴルフ界の過去と未来【舩越園子コラム】

世界アマチュアランキング1位のルーク・クラントン(米国)が、PGAツアー・ユニバーシティ・アクセルレイテッドという新制度の規定の条件を満たし、PGAツアーのメンバーシップ獲得を決めたことが大きな話題となった。

所属 ライター
舩越 園子 / Sonoko Funakoshi

配信日時:2025年3月3日 03時00分

PGAツアーの先月2月は、戦いの舞台が西海岸からメキシコへ、フロリダへと移り、多彩な顔ぶれが優勝争いを演じた傍らで、米ゴルフファンや米メディアの関心をひそかに集めていたのは、「若い力」にまつわるエピソードだった。

【写真で解説】ジャンボは40年前から時代を先取り! メタルウッドで300Y飛ばす秘密とは?

タイガー・ウッズ(米国)が大会ホストを務める「ジェネシス招待」では、チャーリー・シフォード・メモリアル・エグゼンプションなる特別推薦枠で初出場したオーストラリア国籍の26歳、ダニエル・リストが口にした言葉が、長年のゴルフファンの心を捉えた。

米国で生まれ、西アフリカのガーナで育ったリストいわく、「(ガーナでは)学校から帰ると、(時差で)ちょうどPGAツアーのTV中継が始まる時間だった。僕はタイガーのプレーを1000時間以上、見た」。

アフリカや欧州のジュニアゴルフを席捲したリストは、13歳で奨学金を得て渡英。大学は米国のワシントン大学へ進み、プロ転向後は米国のコーンフェリーツアーを経て、欧州のDPワールドツアー出場資格を獲得。何もかもがグローバルで有能なリストが、「ジェネシス招待」では、憧れのウッズとの初めての対面に心を震わせていた様子が、とても新鮮で微笑ましかった。

その2週間後。フロリダシリーズ第1戦の「コグニザントクラシックinパームビーチ」では、世界アマチュアランキング1位の21歳の米国人選手、ルーク・クラントンが、予選通過を果たした時点でPGAツアー・ユニバーシティ・アクセルレイテッドという新制度の規定の条件を満たし、PGAツアーのメンバーシップ獲得を決めたことが、米ゴルフ界では大きな話題になった(注:6月まではアマチュア資格)。

フロリダで生まれ育ったクラントンにとって、この大会は地元開催。戦いの舞台であるPGAナショナルは「これまで40回はプレーした」そうだが、「正直に言うと、本当はもっとプレーした。3番4番あたりに、こっそり忍び込んでプレーしたことがあった」。そんな彼の告白に、多くのゴルフファンが耳を傾けた。

以前、王者ウッズも「幼いころ、高値の花だった一流コースに、父とこっそり忍び込んでプレーした」と告白したことが、ふと思い出された。誰かに憧れ、何かに想いを馳せ、1人の若者がPGAツアーの選手となるまでには、長い歳月が流れ、歴史が紡がれ、そうやって物語の重みと深みは増していく。

昨今のゴルフ界には、PGAツアー以外にも、リブゴルフが創設され、リアルゴルフとバーチャルゴルフの融合であるTGLもキックオフ。世界のトッププレーヤーによる戦いが、あちらこちらで行なわれているが、どうしたわけか、いずれもTV視聴率は苦戦続きとなっている。

それぞれ、何が問題で、何が課題なのか。それさえ、なかなか見えない状況だが、はっきり言えることは、PGAツアーには歴史に裏打ちされた重みや深みがあるということ。新興のリブゴルフやTGLには、そうした重みや深みは、今は皆無に等しい。だが、逆に新興ツアーには斬新さや意外性、創造性が溢れており、それらはトラディショナルなPGAツアーには、あまり感じられない。その意味では、「どっちもどっち」だ。

そこで、こんな仮定を立ててみよう。もしもPGAツアーがリブゴルフやTGLに負けないようなユニークで画期的なことを「これから、やるぞ」と決意したら、どうなるか?新たなチャレンジに向けて、すぐにでも動き出すことは、決して不可能ではない。

だが、もしもリブゴルフやTGLが、PGAツアーに漂う歴史の重みや深みを「これから生み出すぞ」と決意したとしても、それは一朝一夕で成せるものではない。しかし、これから長い歳月が流れていく中で、重みや深みを増していくことは、もちろん不可能ではなく、自ずとそうなっていくものなのではないだろうか。

そうやって考えていくと、伝統的なPGAツアーと新興のリブゴルフ、そしてTGLは、今は対照的でお互いに相容れない感があるものの、月日の経過とともに、それぞれに足りないものを補充・拡大し、成長し、いずれも、いつかは、今以上に魅力満載のツアーになるのではないかと思えてくる。

「対立」「乱立」「騒動」といった言葉が頻出し、なんとなく暗い気持ちにさせられがちの昨今のゴルフ界だが、こんなふうに少しばかり異なるアングルから眺めてみると、そう悪い話ばかりではなく、案外、未来は明るく思えてくる。

そして、それぞれのツアーが今より格段に円熟味を増すころには、この2月に「若くてホット」と呼ばれたリストやクラントンが、もしかしたらビッグスターと呼ばれるようになっているのかもしれない。そんな変化や変遷、そして揺れ動くゴルフ史の来し方行く末を、大いなる好奇心とともに、一緒に眺めてみようではありませんか。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

関連記事

コグニザントクラシックinパームビーチのニュース

PGAツアー 週間アクセスランキング


大会情報

大会前日に表示されます

関連サイト