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    打打打坐 第83回【バブルへGO!とバブルの業】

    打打打坐(ちょうちょうだざ)とは、打ちまくって瞑想の境地に入るという造語。コースで打たなければわからないと試打ラウンドだけで年間50ラウンド以上しているロマン派ゴルフ作家が、瞑想、妄想、迷走…… 徒然なるままにゴルフを想い、語るというお話。

    配信日時:2021年11月19日 06時00分

    • ゴルフライフ
    目次 / index
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    バブルへGO!は夢の国

    50代後半になったバブル入社組前後の人たちをネット中心に『働かないおじさん』として、馬鹿にすることが流行っている、と聞きました。

    かつて、24時間働けますか? という栄養飲料のCMが流れる中で、若かった僕らは、猛烈サラリーマンとして昭和を築いてきた先輩たちを見上げながら、「あんなふうになれるのだろうか?」と一抹の不安と戦っていたのです。

    ドラマ「半沢直樹」の主人公は、まさに同期です。僕らの世代でも、猛烈サラリーマンとして、経済の最先端で戦ってきた仲間はいます。つまり、どの世代も同じなように、十人十色なのです。戦い終えて、大人しくなった仲間もいますし、バブルが弾けて以降、低空飛行を続けながら、墜落せずに飛び続けることに必死になっている仲間もいます。一括りにして、非難されても、困ってしまいます。

    先日、前は30代前後の人たちのコンペ、僕らの組を挟んで、後ろはもっと若く見える人たちのコンペという状況でゴルフをしました。小春日和で、コースは満員御礼。毎ホール、ティーにはカートが数台並ぶという状態でした。

    「あの部長はさ、何かというと、昔はという自慢話になるよな」
    「そうそう。心の中で“出た! バブルへGO!”って思うんだよね。ガハハハ」
    「でも、ゴルフだけは上手い。それがムッとさせるよね」
    「あと数年の我慢で定年だから、それまでには、ゴルフも僕たちが追い抜くでしょう。ヘヘヘ」
    と話していました。

    “バブルへGO!! タイムマシンはドラム式”は、2007年に公開されたホイチョイ・プロダクションズ原作で、広末涼子さんが主演の映画です。バブルが弾けないように、タイムマシンで1990年に乗り込んで、という内容でした。

    若い世代は、バブルで浮かれていた時代は遠い昔の夢の国で、悪いことだった、という価値観を持っているように感じます。彼らの話を聞きながら、僕も色々な若者に、ロマン派ゴルフ作家ではなく、アイツは、バブル派ロマン作家だと笑われているのかもしれない、と考えて、苦笑いをしたのです。

    バブルの恩恵は令和でも

    以前に、一緒に仕事をしていた後輩に言われたことがあります。
    「僕らの世代は、バブルの恩恵を一切受けていないから、しかたがないです」
    そのときは、確かにそうだなぁ、と納得しました。

    しかし、コロナウィルスのパンデミックで、新生活様式を余儀なくされた若者たちは、安全に遊べるゲームとしてゴルフを選択しました。中高年のお遊びというイメージだったゴルフは、やってみると、悪いイメージは一新されて、実に面白く、多くの若者を虜にしました。令和は、新しいゴルファーたちの時代とも言えます。

    この国のゴルフ史上、現在が最も安価で、お気軽にゴルフが出来る環境があるという幸運が新しいゴルファーを作る原動力になりました。

    バブルの頃は5万円を支払わないとゴルフが出来なかったコースが、上手に割引を使えば、5千円でプレーできるようになるなんて、誰も想像できませんでした。9割もプライスダウンになったケースは稀ですが、7〜8割のプライスダウンで出来るコースは、たくさん存在します。

    この国には、何度かゴルフブームがあって、そのたびに、ゴルフコースの新造ラッシュが起きました。最もゴルフコースが増えたのが、バブル期だったのです。

    豪華なホテルのようなクラブハウスは、バブル当時に、数十億円の建築費で作られたものです。バリバリのドレスコードをクリアしたセレブだけが集まる空間として利用され続けると信じて作られたのに、30数年後に、若者たちに「こういう無駄がバブルを崩壊させたんだ」と知ったか振りをされながら占拠されるなんて、お釈迦様でもしりますまい、です。(ちなみに、無駄がバブルを崩壊させた、という認識は間違い)

    プレハブに毛が生えたようなチープなクラブハウスもあります。これは、バブル期にコースを作り始めて、途中で、バブル崩壊が始まったケースです。コースは出来上がっているので、費用を掛けずにクラブハウスを作って、ゴルフコースとして営業できるようにしたというわけです。

    現在、ゴルフをしている人たちは、バブル期のゴルフコース新造ラッシュで過剰に出来上がってしまったコースが生んだ価格破壊で、安くゴルフが出来る恩恵を大なり小なり受けているのです。しかし、今でも、超名門コースでは、バブル期並みの高額なプレー代を維持しています。どちらが正しいとかではなく、ゴルフコースをゴルファーが選択できる時代が来たというだけのことなのです。

    お寿司屋をイメージするとわかりやすくなります。回転寿司も寿司ですし、カウンターのみの高級店も寿司です。バブル崩壊で窮地に陥った多くの高級寿司店は、回転寿司の普及で助けられたという説があります。回転寿司で、気軽にお寿司を食べる習慣を根付かせて、それでは物足りなくなった客が高級店に通うようになるという循環が寿司業界を支えているのです。

    バブルの業も忘れない

    バブルのお陰だと感謝することもたくさんありますが、バブルの負の遺産もまだまだ残されています。

    1970年代の経済成長期に、国を挙げて、一億総中流社会を目指すという意識が植え付けられました。国民全てが中流階級になれば、みんな幸せという考え方は、最近の中国の政策のようですが、この意識は、この国にも未だに行き続けています。バブル期に、瞬間的に、達成感を味わったからです。成功体験は、ある意味で、麻薬なのです。簡単に依存からは抜けられません。

    バブル期までのゴルフコースは、“目指せ名門!”が合言葉でした。ほぼ全てのコースが、将来は名門コースになれると信じて、滑稽なほど、夢中になって頑張っていたのです。冷静に考えれば、豪華な施設は衣装のようなもので、肝心の中身が伴わなければ、むしろマイナスになります。そもそも、名門というのは一朝一夕でなれるものではありません。

    わかりやすく、真似がしやすいところだけを同じようにして、名門を気取る愚かなコースがたくさんありました。会員権の相場のラインキングを指針にするのが、バブル期では宗教のように流行ったのです。結果として、名門の仲間入りをしたという達成感を味わった経験は、バブルの負の遺産です。

    若いゴルファーが増えている今だからこそ、自分たちがゴルフができることに感謝しつつ、新しい価値観を作って欲しいと思います。

    サービス業を考えるときの1つの境として、TDL前と後という考え方があります。ディズニーランドが来場者と一緒になって夢の空間を作るサービスを成功させた瞬間から時代が変わったのです。ゴルフコースのライバルはTDLだと言った時もありましたが、土俵が違い過ぎて、あまり意味がない考え方として廃れてしまいました。

    2021年。若いゴルファーは、信じられないほどオシャレです。ウェアに費やす金額は、オールドゴルファーの数倍は当たり前になっているというデータもあります。5万円のドライバーを高額だと敬遠しているのに、5万円のアパレルやシューズ、キャディバッグは躊躇なく購入する感覚は、バブル入社組のゴルファーには理解が出来ません。

    夢の国の住人として、その一日を楽しむためのパスポートは、変身なのかもしれないと、最近よく考えます。ゴルフコースも夢の国なのです。その空間に相応しい自分になるために、変身をするのは当然です。オールドゴルファーは、それを所作で求められましたが、若いゴルファーたちは、まさに、ディズニーランド流なのです。

    昔は良かった、あの頃に戻りたい、というゴルフ関係者はたくさんいますが、僕は、全くそんなふうに思いません。棲み分けて共存する環境が出来つつある現在が、楽しくてしかたがないからです。何よりも嬉しいのは、僕は全てのコースに行ける見えないチケットを持っていることです。だからこそ、選択することに意味が生まれます。

    時間は前にしか進まず、消して逆行しません。
    ゴルフでも、その法則は絶対なのです。

    【著者紹介】篠原嗣典

    ロマン派ゴルフ作家・ゴルフギアライター。ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、現在はゴルフエッセイストとして活躍中。
    連載

    ロマン派ゴルフ作家篠原の “今日も打打打坐”

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