ドライバーの低重心化って、そんなにいいこと?【QPのギアマニュアル】
クラブフィッターとしてアマチュアゴルファーと向き合っている、QPことプロゴルファー関雅史が最新のギアマニュアルを紹介する。今回はドライバーの低重心化のお話。
配信日時:2023年11月8日 03時42分
今年も新しいクラブが続々と発売されましたが、まだまだ進化が止まりませんね。ドライバーの進化の一つが低重心化です。最近の流行として、重心位置を深くした深重心がありますが、重心を深く、そして低くするのはとても難しい設計です。両立するのは、本当に凄いことなのです。ちなみに私は、昔ながらの日本人体系で足が短いので、容易に低重心を実現しています(笑)。
冗談は置いときまして、低重心のメリットは、簡単に言えばボールが上がりやすいのと、低スピンのボールが打ちやすくなることです。高打ち出し、低スピンは飛距離アップには欠かせない要素ですからね。特に、スライスでスピン量が多い方は、惹かれますよね。
では低重心だと、どうして低スピンになりやすいかというと、〝縦のギア効果〟という現象が起こるからです。重心より下側でボールをヒットすると、トゥ側から見てヘッドは時計回りにロフトが立つ方向に動きます。そうするとボールには反時計回りの回転する力が加わるので、バックスピン量が増えます。逆に重心より上側でヒットすると、ヘッドは反時計回りにロフトが寝る方向に動き、ボールには時計回りの逆方向に回転する力が加わるので、バックスピン量が減るのです。歯車をイメージしてもらうと分かりやすいと思います。
つまり、重心が低ければ、バックスピン量が減るゾーンが増えるということなのです。ただですね、いろんなメーカーが低重心をウリにしますが、統一された〝低重心〟の定義はないのです。
重心の低さを示す数値として、低重心率というものがあります。リーディングエッジからフェース面上の重心までの長さが、重心の高さ。その高さがフェースの高さに対して、どれぐらいの比率かという数値です。この数値は重心位置の高低の目安になります。フェースの高さの半分の位置に重心があれば、50パーセントとなります。最近の平均的なドライバーのフェース高は約51ミリで、重心高は約29ミリです。低重心率でいうと56.86パーセントと、フェースの真ん中より少し上側にあるといえます。とはいえ何パーセント以下が〝低重心〟という基準はありません。メーカーの中では、前作比という基準はあると思うので、そういう意味での〝低重心化〟はいえると思います。
試打会場でアマチュアの方が新作ドライバーを打っていて、「スピン量が少なくて、球が強いね」といいます。そうすると側にいるメーカーさんが「うちのは低重心ですから」という会話をよく聞きます。しかし、低重心をうたいながら、他のメーカーと比べると実際には、それほど低重心ではないモデルがあるのも事実です。
重心がそれほど低くなくても、単純にフェースセンターに当たればスピンが減るし、反発力も高いので低スピンで強い球は打てます。重心位置の低さによる効果というよりは、芯に当たって打ち出しとバックスピン量のバランスがいいだけということも少なくありません。
この連載でいつもいっていますが、ボール初速は別にして、打ち出し角とバックスピン量のバランスが非常に大事です。この二つが適正であれば飛距離は出ます。
ボール自体がスピンを減らす設計が増えているので、ドライバーを低重心にしすぎると、スピン量が足りずにドロップしやすいモデルもあります。メーカーによってはボールの低スピン化を考慮して、重心を下げ過ぎずに、ある程度スピン量が入るように設計しているところもあります。低重心クラブの恩恵を受けるゴルファーもいますが、万人に合うとはいえないのです。
関雅史(せき・まさし)/1974年生まれ、東京都出身。PGA公認A級ティーチングプロの資格を持ち、クラブフィッティングも行う。東京・駒込のゴルフスタジオ「ゴルフフィールズ」で活動。
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