昨年、自己ワースト4試合連続予選落ち スイングの迷路に迷い込んだ稲見萌寧を復調させた1つの練習器具
24歳にしてツアー通算13勝を挙げている稲見萌寧だが、昨年は自己ワーストの4試合連続予選落ちを喫するなど、ショットの不調に苦しんでいた。彼女を復活に導いたのは1つの練習器具だった。
配信日時:2024年3月12日 23時09分
24歳にしてツアー通算13勝を挙げている稲見萌寧だが、昨年の序盤は自己ワーストの4試合連続予選落ちを喫するなど、ショットの不調に苦しんでいた。いかに復活したのか。14日(木)発売のゴルフ雑誌ALBA888号で柳橋章徳コーチと取り組んだ練習について語っている。稲見の頭の中をシンプルにしたのは1つの練習器具だった。
■フェードを打ちたい場面で逆球のチーピン
新型コロナウイルス感染拡大によって統合された2020-21年は稲見萌寧にとって最高のシーズンだった。45試合に出場して9度の優勝で賞金女王に輝き、東京五輪では銀メダルを獲得。予選落ちはたったの4回と安定感も光った。翌22年シーズンは腰痛に悩まされながらも、優勝2回でメルセデス・ランキング3位と、その強さは揺るがなかった。
それでも「違和感があってショットが恐怖だった」と、オフには腰に負担がかからないスイングを目指し、新しいコーチのもとで大改造に踏み切る。23年3月の開幕戦は2位タイと上々のスタート。勝つのは時間の問題に思われた。
しかし、稲見のスイングは迷宮に入る。4月から5月にかけて、1つの棄権を挟み自己ワーストの4試合連続予選落ち。持ち球のフェードを打ちたい場面で逆球のチーピンが出るなど、最大の武器であるはずのショットが乱れる。「一番多いときは10個くらい」とチェックポイントが頭の中で大渋滞。その間、3人のコーチを渡り歩いたが、好転する糸口がつかめなかった。
■体の意識が強すぎてクラブを忘れていた
6月の「アース・モンダミンカップ」で4人目のコーチ、柳橋氏に付いてから潮目が変わる。「体の動きばっかり意識して、クラブを忘れていました」と気づき、実に12試合ぶりのトップ10入り。そして11月、「TOTOジャパンクラシック」で15カ月ぶりの復活優勝を遂げることになる。
柳橋コーチは「彼女は考えすぎて何をやっていいか分からない状況だったので、どうでもいいことと、大切なことを整理しました」と語る。長い間悩み続けた稲見を復調させたドリルは、意外にもシンプルなものだった。
■動作よりも力感を大事にする
「体をどう動かすかよりも、クラブをどう動かすか。だからインパクトバッグを叩いてもらいました。上げる位置とか体の使い方とか、細かいことは考えていません」というのは柳橋コーチ。『インパクトバッグ』は円柱状の袋の中に衣類やタオルが入れて使う、3000円出せばおつりがくる練習器具だ。まず、『叩く』という人間がもともと持っている本能的な動きを呼び覚ますことから始めた。
すると、稲見のスイングに変化が表れる。「重くて大きいインパクトバッグに負けないような圧とか迫力が出せてくる。動作というよりも力感。インパクトバッグを“パーン”と強く叩く練習をして、それと同じようにボールを打ったら、自然と形も良くなりました」と稲見は振り返る。
このとき、大事なのは音。フェースが開いてインパクトバッグに当たると鈍い音に。パーンといい音が鳴るように叩くと、ボールも真っすぐ押せるようになる。「これをやるようになってボールの音も変わりました」。稲見本来のフェードボールが蘇った。
ただし、「インパクトバッグの音はけっこううるさいから(笑)」と、試合会場ではどうしても注目を集めてしまう。それでも、「音が出ないようなものを試してもしっくりこなかった(笑)。気持ち良くない」と使い続け、11月の優勝につなげた。
稲見萌寧
いなみ・もね/1999年生まれ。東京都出身。東京五輪では銀メダリストにして、2020-21年シーズンの賞金女王。昨年11月、日米共催の「TOTOジャパンクラシック」で優勝し、その資格で今季から米国女子ツアーに参戦している
柳橋章徳
やぎはし・あきのり/1985年生まれ。茨城県出身。名門・中央学院大学でレギュラーとして活躍し、その後ティーチングの道へ。昨年6月から稲見萌寧のコーチを務めている
◇ ◇ ◇
●インパクトバッグを練習場で使ったら注目を集めること間違いなし!? 百聞は一見にしかず。関連記事【稲見萌寧が叩くインパクトバッグの“音”を動画でお届け!】をチェックしよう。