上田桃子・吉田優利・渋野日向子も実践‼ 辻村明志「いかに迷いなく振り切るか。理論はすべてそのためにある」【四の五の言わず振り氣れ】
元賞金女王・上田桃子を始め、吉田優利、渋野日向子らそうそうたるメンバーが集う女子ツアーの一大勢力である「チーム辻村」。彼女らを指導するツアープロコーチの辻村明志は何を教え何を伝えているのか? 上達ノウハウを惜しむことなく伝える。
配信日時:2024年4月17日 09時53分
元賞金女王・上田桃子を始め、吉田優利、渋野日向子らそうそうたるメンバーが集う女子ツアーの一大勢力である「チーム辻村」。彼女らを指導するツアープロコーチの辻村明志は何を教え何を伝えているのか? 上達ノウハウを惜しむことなく伝える。
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連載タイトルの『四の五の言わず振り氣れ』は、ボクの師匠である荒川博先生(王貞治に一本足打法を指導した元巨人軍コーチ、辻村のゴルフの師匠でもある)から教わった打撃の真髄です。強気、根気、意気、本気……。「氣」はまさに空気のように、ボクたちの身の回りの至る所にあるエネルギー。これをヘソ(臍下丹田、せいかたんでん)に集め、頭でいろいろ考えるのではなく一気(氣)に振り抜け!の思いを込めて、このタイトルにさせていただきました。迷いなく振り抜くために、すべての理論があるのかもしれません。
この連載ではそのようなことのないよう、わかりやすく、また少しでも皆さんの上達に役立つ情報を届けたいと思っています。
以前私はある女子プロに徹底的にレベルスイングを教えたことがあります。その女子プロのスイングの癖は、トップで軸が左に傾き、インパクトで右に傾くギッタンバッコンと呼ばれるもの。典型的なジュニアのスイングで、非力なのに飛ばそうとするあまり必要以上に高いトップ、インパクトではクラブがアンダーから入るあおり打ちになるのでしょう。
レベルスイングとは、体を地面と平行に回転させることが目的でした。レベルスイングというと、もっともポピュラーなのが肩にクラブを担いで体を回すドリルではないでしょうか。肩がレベルに回れば、体全体がレベルに回る、というわけです。それはそれで間違ってはいないし、有効な練習ではあるでしょう。しかしボクには、順番が違うと感じるのです。
というのもスイングは下から順番に行われる回転運動。肩がレベルに回転するのは結果であって、下半身のレベル回転があってこそのもの、というのがボクの考えです。そこでボクがそのプロのスイングで注目したのが、左右のヒザの動きでした。トップではやや右ヒザが上がり、インパクトでは逆に下がればギッタンバッコンになるのは自明の理。加えてこのプロの場合、ダウンで右カカトが浮き、インパクトでは右ヒザが左ヒザの前に出ていました。そうなるとダウンの早い段階で左腰が開き、左サイドの壁はできず、手元が浮いてしまいます。インパクトでクラブヘッドはアンダーから入るあおり打ちとなり、ミート率もエネルギー効率も低いスイングになっていたわけです。
そこでボクはプロの前に座り、両ヒザを持ち、インパクトで右ヒザを左ヒザ裏の下に押し込むようにして振らせました。ヒザがレベルに回らなければ理想のレベルスイングなどあり得ません。
アマチュアに多いスイングがアウトサイド・イン軌道であることは確かです。それがアマチュアにスライサーが多い理由にもなっています。そのためインサイド・アウトへの矯正が、長くレッスンの王道のように扱われてきたと感じるのはボクだけでしょうか?
荒川先生は生前、究極のスイングについて、「上から、内から、そして最短」と、おっしゃいました。ボクなりに解釈すると「上から」とはダウンブロー、「内から」とは体の近くを腕とクラブがインサイドに下りてくるダウンスイング、そして「最速」とはクラブが体の近くを最短距離で振り抜くこと、となるでしょうか。
ちなみにその究極の形は、先生の弟子の王さんのスイングでした。一本足打法ばかりに目を奪われますが、あの硬いバットが体に巻きつくように振り抜かれているのには驚かされます。つまりインサイドに下ろしてきたバットを、ワキを締め腕をたたみ、体の近くを最短距離でインサイドに振り抜いているのです。これがあの王さんの最速ヘッドスピードの正体でした。インサイド・インは究極のスイングですが、厳密にはクラブヘッドがイン→ストレート→インに動きます。どこがストレートかといえば、ちょうど右足前から左足前辺り、インパクトゾーンと呼ばれる辺りです。インサイド・アウト、アウトサイド・インにせよ、これまでの概念ではインパクトは点でした。これを線に、さらに言えば低く、長い線にすることがボクたちの目指すスイングです。
実はここでの『ちょっとした頑張り』こそが、スイングの要諦です。先ほどの女子プロの例でいえば、右ヒザを左ヒザ裏の下にもぐり込ませる体幹の強さであったり、腹圧のかけ方だったり、あるいは骨盤、股関節の動かし方だったり。
この『ちょっとした頑張り』を身に付け、究極のスイングに近づくため、ボクたちチームは毎日の練習に励んでいると言っても過言ではありません。そこでまずイン→ストレート→インの概念を覚えておいてください。具体的な練習方法については、この連載で詳しく紹介していく予定です。
ボクたちチームの選手たちがやっている、次のような練習をテレビや雑誌などで見たことのある人もいると思います。それは目の真下、腰の高さに、飛球線方向に1本のロープを張り、そのロープに当たらないようテークバックして切り返し、ロープの内側に腕とクラブを下ろし、そしてやはりロープに当たらないよう振り抜いていく練習です。
荒川先生の指導を受ける前まで、たとえば(上田)桃子プロのスイングプレーンはインサイド・アウトでした。インパクトを過ぎると、アウトサイドに振り抜くものですから、どうしても腕やクラブがロープに引っかかります。確かにインサイド・アウトは飛距離が出ます。しかしゴルフは距離を競うゲームではなく、どこにボールを止めるかを競うゲーム。時にインサイド・アウトで出る、ランが計算しにくいフックボールは必ずしもアドバンテージにはなりません。いや負ける原因になることだってあるわけです。
30代後半になった桃子プロが、今も現役で、しかも優勝争いをするトッププロとして活躍できるのは、インサイドに振り抜けるようになったからだとボクは信じて疑いません。さらにいえば桃子プロの飛距離は、ここ数年で伸びています。より力強く、かつ捻れない、止まるボールにもなっています。
さて、究極のスイングを身に付けるための『ちょっとした頑張り』は、どのレベルのゴルファーでもできる頑張りだとボクは思っています。そして、その頑張りは必ずや皆さんのゴルフの上達につながると信じて疑いません。
次号より迷いなく振り切るための方法や考え方を紹介していきましょう。お付き合いのほど、よろしくお願いします。
■辻村明志
つじむら・はるゆき/上田桃子、吉田優利、渋野日向子らを指導し、プロを目指すアマチュアも教えるプロコーチ。荒川博氏に師事し、その練習法や考え方をゴルフの指導に取り入れている。1975年福岡生まれ。元(はじめ)ビルコート所属
※『アルバトロス・ビュー』828号より抜粋し、加筆・修正しています
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辻村明志【四の五の言わず振り氣れ】