ドラコン競技歴5カ月でアマ世界一! 普段は看護師として働く男性の素顔に迫る
先月、米国フロリダ州で行われた「WLDドラコン世界選手権」のアマチュアの部で吉田航生さんが優勝。LDJ(Long Drive of Japan)の公式インスタグラムでは「WLDシリーズでの、日本人チャンピオンは史上初です」と、この快挙を伝えた。
配信日時:2024年8月6日 05時04分
パリ五輪では松山英樹が銅メダルを獲得するなど、日本の選手たちが気迫のこもった熱いプレーをみせている。そんな中で先月、26歳の男性がドラコンで世界一になった。米国フロリダ州で行われた「WLDドラコン世界選手権」のアマチュアの部で吉田航生さんが優勝。LDJ(Long Drive of Japan)の公式インスタグラムでは「WLDシリーズでの、日本人チャンピオンは史上初です」と、この快挙を伝えた。
吉田さんは兵庫県姫路市在住。「家族がゴルフをやっていて興味があった」と、クラブを握ったのは社会人になってから。「打つのが気持ちいい」とすぐに夢中になり、ゴルフを始めて半年ほど過ぎると、「上手くなりたい」と兵庫県にある『ナイスショット!ゴルフスクール姫路校』に通い始めた。普段は看護師として働きながら、2回のレッスンを含めて週4回は練習に励み、なんとゴルフを始めてわずか2年で目標としていた70台を達成した。
そして、今年1月からは「野球をやっていたこともあり飛ばしに興味があった。日本でどこまで行けるのか興味があって挑戦した」と、ドラコン競技に出るために飛距離を伸ばす練習を開始。奇しくも『ナイスショット!ゴルフスクール姫路校』で吉田さんを教えていたのは、プロドラコン選手の高田祐太郎で環境は整っていた。
デビュー戦となった3月30日のLDJ選手権・第5戦のオープンディビジョンでいきなり優勝を飾り、日本のトップドラコン選手がひしめくエクストリームディビジョンに昇格を果たす。4月13日の第9戦ではそのエクストリームディビジョンで準優勝。そして、6月22日の「WLD日本代表決定戦」オープンアマの部に勝ってポイントランキング1位に立ち、ドラコン競技を始めてわずか4カ月、たった3戦で日本代表の座を勝ち獲った。
吉田さんにとって4戦目となった「WLDドラコン世界選手権」は、各国から飛ばし自慢が集まる。「世界を感じて来よう」と2年後にアマチュア世界一を目指す計画だったが、「強そうな選手が途中で脱落して、運もあって勝てました」と、競技歴5カ月でアマチュア世界王者となった。吉田さんはこの勝利を「3人で達成した」と話す。高田コーチが技術を教え、理学療法士の小川世玲斗(せれと)さんがストレッチや体のメンテナンスといった役割を務めた。
短期間で最高の結果を出せた要因はどこにあるのだろうか。吉田さんは身長185センチ、体重117キロと体格に恵まれている。2分半の間に6球を打って一番飛んだ1球の飛距離を競うドラコン競技は、ゴルフ競技よりは経験の差が出にくいかもしれない。チームの助けもあったとはいえ、どんなスポーツでも5カ月で世界一になったという話は聞いたことがない。
それを実現した要因の1つはスポーツ歴。吉田さんは小学生から高校までの12年間は野球少年だった。その中で高校時代のピッチャーの経験が「スイングに生きている」という。「内野手にも共通する動きですけど、小さいアークでも瞬間的に腕を走らせる、出力を出す体の使い方が身に付きました」。実際、野球経験者ではスラッガーよりピッチャーにゴルフの上手い人が多い。
また練習では、「地味なことを積み重ねていこう」というスローガンを掲げて、高田コーチと取り組んできた。「ゴルフが上手くなったのは体の動きを制限してベタ足で打ったり、ボールを踏んで足場を不安定にして打ったり、クロスハンドで打ったり、地味な練習でした」。70台を目指していた頃はムダな1球を打たないように目的意識を持ち、基礎的な練習を繰り返してきた。それが土台となり、ドラコンの舞台でもその日の調子によってスイングを調整するのに役立っている。
最後に次の目標を聞いてみた。「世界大会の次の日にプロの試合を観て、カイル・バークシャーやジャスティン・ジェームスといったトップ選手には現状では勝てないと思いました。2年はアマチュアとして自力をつけていって、5年後にはプロアマ問わず正真正銘の日本一、世界一になりたい」。5年計画でプロ転向も視野に入れつつ、ドラコン競技を盛り上げる存在になりたいとも考えている。
トラックマンで計測したヘッドスピードは64.5m/s(一般男性ゴルファーは40m/s前後、男子ツアープロは50m/s前後)、日本での公式記録は397ヤードと、すでにプロに負けない実力を備えているが、「筋トレをちゃんとできてない」とまだまだ成長の余地はある。突如として現れたドラコン界の新星が、今後どこまで飛距離と成績を伸ばしていくのか楽しみだ。